【APH】空模様、恋模様。【短編集】 (ページ20)

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ぬくもり（日）ページ20

その日、私は恋人であるAさんと、私の家で穏やかに大晦日をすごしていました。ふたりでコタツに入ってみかんを食べ、年越しそばを一緒に作ってすすり、紅白を見て。特別なことはないけれど、一緒にいるだけで、なんとも言い難い幸せと温もりがあります。私、こんなに幸せでいいんでしょうか。

除夜の鐘が鳴る、厳かな夜。
｢ああ、年が明けましたね｣
｢そうだね、あけましておめでとうございます、菊さん｣
｢今年もよろしくお願いします。Aさん。今年も良い一年になるといいですね｣
｢うん、みんな仲良くできるといいな。アーサーやフランシスはすぐ喧嘩するから｣
Aさんは笑い声混じりに言いました。この他愛のないやり取りがどうしようもないほどの喜びと愛しさを私にくれるのです。私が幸せに浸っていると、Aさんがあっと思い出したように声を上げました。
｢そうだ、初詣行かなくちゃ。甘酒飲みたいもん｣
｢最優先事項は甘酒ですか｣
｢うん。菊さんも甘酒飲みたいでしょ?｣
｢ええ、まあ｣
｢じゃあ決定!行こう!｣
すぐに準備してくる、と駆け足で部屋に戻っていったAさんが妹のように感じられて可愛らしく思いつつ、私も準備をするために部屋へ行くのでした。

｢うう、寒い……｣
｢そうですね、まあ、1月ですから致し方ありませんね｣
Aさんは寒いのか、ただでさえ小さな体を縮こまらせていました。マフラーにダウンジャケット、それからカイロ。それでも寒いようで、時々白い手のひらを擦り合わせては、はあ、と息をかけています。ふと私は違和感をおぼえました。
｢Aさん、手袋はどうしたんですか?｣
｢あー、それが、家に置いてきちゃって｣
｢そうですか。私の手袋でよければお貸ししますよ｣
私は言いながら左手の手袋を脱ぎ、Aさんにそっと手渡しました。
｢ありがとう。でも、これじゃあ菊さんの左手と私の右手は寒いまんまだね｣
｢ふむ｣
私はAさんの右手をとり、ゆるく指を絡めました。いわゆる恋人繋ぎです。柄にもないことをやっているので心臓がうるさく主張をしています。
｢菊さん、顔真っ赤だよ｣
｢あなたこそ。Aさん｣
2人で顔を見合わせて笑いあって、そのまま繋いだ手を羽織のポケットに入れて、神社への道程を歩みました。息も白む寒さの中、互いの温もりを感じて。

～おまけ～
「和服にもポケットあるんだね」
「本来は袂や帯に物を入れるので無いのですが……最近のものは便利ですね」