35 : 待たせてごめん。 ページ39
・
何が起こっているのかわからなかった。
ただ感覚として耳が捕らえたのは、部屋を出る時にその場で上がった、冷やかすような声。
潔さんは振り向きもせず、私の右手首を放すこともせず。無言のまま連れてこられた先はホテルの、静かな中庭で。
『っ、あの………潔、さん……？』
上がりかけた息を宥めつつ、困惑を隠せない色の声を掛ければ。
潔さんはようやく、足を止めた。
「ごめん………邪魔した」
何を、とは聞かずともわかるから。
反射的に首を振る。
『凪さんのお話は、私もちゃんと理解出来てないですし。後でお詫びして、聞いてき、』
「それは駄目」
『え……？』
聞いてきますね、と続けようとした言葉は、思いの外はっきりと遮られた。
その強さに驚く。
「聞かないで。聞いたら凪に………Aさんが、揺れるかもしんねぇだろ」
一言一句、聞き逃したくなかった。
ほんのわずかも逸らされることのない碧だって、私の全部で。
『……もし私が凪さんに揺れちゃったら………今の潔さんは、どう………思うんですか？』
期待するな、という方が無理だ。
全部受けとめるから。受けとめたいから。
潔さんの綺麗な眉が寄せられる。
「嫌だ」
『……』
「だからさっきも邪魔した。凪もAさんも、何を今更って思うだろうけど」
凪さんの真意はさすがに、私にはわからない。
それを聞く前だったのだから。
でも。
私の想いを一番良くわかっているのは、当然__________私自身。
『……今更なんて思いませんよ。………逆に、いつまでも諦めが悪くてすみません、とは思ってます』
散々、口にしてきた想いだけれど。
今こうしてまた、貴方に伝えることに意味があるのだろうから。
ならば。
私は何度でも。
『潔さんが好、っ……』
「待って。………そういうトコも好きだけどさ、さすがに最後は」
俺から言わせてと。
夜風に少し冷えた手が、私の唇から離れる。
「ちゃんと、Aさんのことを好きになった。………だから俺と、付き合って下さい」
いつかのように優しく細められた瞳が、私を捕らえる。
" 初恋は実らない " なんて。
信じなくて良かった。
『っ、〜〜〜っ！』
「あー………ごめんな本当、待たせて」
込み上げる嗚咽を噛んだ私の唇を、そっと指で撫でてから。
困ったように笑った潔さんは、そこへと。
触れるだけのキスを密やかに___________落としたのだった。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 635人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ひよ(プロフ) - 魔孤蠧マコトさん» 魔孤蠧マコト様、はじめまして！勢いのあるコメントありがとうございます♥ 大人になった潔のエゴみとか格好良さが、少しでも感じて頂けていたら嬉しいです！ (4月14日 13時) (
レス) id: 03402cf4a3 (このIDを非表示/違反報告)
魔孤蠧マコト(プロフ) - ｳﾞﾜ゛ｱﾞｱﾞｱﾞｱﾞｱﾞ!!!!!潔のくせに!!潔くせにィィィィィ!!!!!可愛いくせにィィィィィ!!かっこよくなってんじゃねぇヨォォォォ!!ｳﾞﾜ゛ｱﾞｱﾞｱﾞｱﾞｱﾞ!!!最後で尊†┏┛ʚ♡ɞ┗┓†死したわ!!何だこの神作品は!!コロす気か!? (4月13日 18時) (レス) @page50 id: 96bbb29a63 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - ちゃむさん» ちゃむ様、はじめまして！ 完結済の話にコメント頂けて喜び舞ってます♥ 色々ストレートな夢主ですが、気に入って頂けたみたいで良かった…！ちゃむ様最推しを変更できて光栄です！(ニヤ )(悪いお顔) (3月21日 8時) (レス) id: 03402cf4a3 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃむ - あ”あ”あ”あ”ぁ！！！お、終わってしまった…この作品の夢主好きだったのになぁ…てかひよさん！！どうしてくれるんですか！！？私の最推しがよっちゃんになっちゃったじゃないですか！(すんません) (3月20日 20時) (レス) @page47 id: b02cacdca3 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - しおさん» しお様、はじめまして！コメントありがとうございますめちゃくちゃ嬉しいです♥ ご指摘の通りスラ/ダンの曲でした！笑 気づいて頂けた！ 夢主も気に入って頂けたようで良かったです(泣) (3月11日 12時) (レス) id: 03402cf4a3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
