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その知らせを聞いたのは、少しずつ春の気配を感じ始めた頃。
『乙骨くん』
寮の共有スペース、ソファに一人座る彼に声を掛けた。いつかと逆。
俯いていた顔が上がり、それは無理に笑っているように見えて。
『………いつ? 出発』
「三日後だって。海外でも、わりと急なんだね」
はは、と吐き出された落胆に、私も唇を噛み締めた。
本当は同い年だったと知り、最近せっかく、敬語を外してもらえるようになったのに。
『すごく寂しい』
率直すぎる私の感想はでも、ちゃんと受け留めてくれたらしい。僕も、と一言。
「……楽しかったんだ。
『うん。わかるよ』
「大変なことはいっぱいあったし、これからもあると思う。………でも僕はやっと、」
その言葉には重みがあり、私が詳しくはない彼の過去を思う。
『皆でここで待ってるから。絶対に帰ってきて、乙骨くん。楽しいことは、もっといっぱいあるんだから』
ね?と同意を求めながら、その艷やかな黒髪に触れた。好きだよと、気持ちをのせて。
私の右手が、彼の左手に絡め取られる。
期待の熱が上がった。
「………Aさんは、皆から好かれてるから」
『え……?』
「僕が居ない間に色々………もしかしたら、って」
不安げに揺れるような瞳は、久しぶりに見た気がした。何をそんなにと驚く。
だって可愛い後輩にすら、嫉妬していたのは私。
乙骨くん、と呼びかけた声は震えていた。
『私ね、酷いんだよ』
真希ちゃんのこと大好きなのに、本当はもやもやしてた。里香ちゃんのことだって、いつも意識して。
『酷い奴になっちゃうくらい、乙骨くんが好き』
だから必ず帰ってきて、と。
これも呪いになるんだろうか。
私の告白に、彼は大きな目を見開く。
「……うん。必ず帰るよ、Aさんの居る所に」
だからずっと待ってて、と。
彼は私の手のひらを、甘ったるいキスで縛ったのだった。
9/21 終
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ひよ(プロフ) - まる麺さん» まる麺さま、はじめまして!コメントありがとうございますめちゃくちゃ嬉しかったです♥ ぶっ通し…!眼精疲労は大丈夫でしょうか、、でも胸焼けして頂けたようで良かったです😭 (10月29日 11時) (レス) id: 03402cf4a3 (このIDを非表示/違反報告)
まる麺 - 最初から最後までぶっ通しで見ましたが甘々で胸焼けしますね!とっても良いです!素晴らしい作品をありがとうございます! (10月29日 3時) (レス) @page38 id: 1349e0699e (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - ナミさん» つまり、メアド要の「ログイン」をしなければのりません。ナミ様の下記の端末ですと非ログとお見受けしますので、、そちらからでは閲覧できないかと思います。大変申し訳ありませんが、可能ならログインしてプロフィールを取り、設定をお試し下さいませ! (2023年4月8日 14時) (レス) id: 03402cf4a3 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - ナミさん» ナミ様、はじめまして!コメありがとうございます♥️ 嬉しかったです!こちらの続編ですが、アール18フラグを立てているため、アール18作品を閲覧できるように、マイページ→設定→コンテンツの設定にて「18歳以上ですか?」に「はい」のチェックが必要です。 (2023年4月8日 14時) (レス) id: 03402cf4a3 (このIDを非表示/違反報告)
ナミ - 初コメ失礼します!すごく面白かったです!質問なのですが,続編ってどうすれば見れますか?分からなくて…,もしよろしければ教えてください!! (2023年4月8日 11時) (レス) id: cbde72f558 (このIDを非表示/違反報告)
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