《後編》改）言えない師範と言わない継子【不死川実弥】

67 : 夢ならいいのに ページ28

side 不死川実弥






そこに駆けつけた時にはもう、たった1人の弟は腕だの胴だのを切り落とされた後で。



それでも生き永らえ、あげくそれらが元在った場所に接着までもするというのは、鬼喰いの影響なのだろうと。




出した結論には到底、喜べなかった。















ありがとう兄ちゃんという最期の言葉と共に、玄弥の身体は粉々に崩れ、ふわりと宙に消える。



上弦の壱との戦いは、苛烈(かれつ)を極めた。

痣を出した悲鳴嶼さんに時透、そして自分。


それだけの柱達と鬼を喰った玄弥、4人掛かりでも、薄氷を踏むような勝利で。



「あ、あああ………玄弥、玄弥っ……!!」



抱きしめていた腕に残ったのは……………玄弥が着ていたはずの、隊服だけ。



(………神様とやらは、どこに居ンだよ)



あんな思いをして。

あんなことをしてまで守りたかった、唯一の弟もこれで奪われた。







夢ならいいのにと、自分は今まで何度思ってきたことだろう。



弟妹達を守るために必死で闘い、ようやく息の根を止めたと思った相手が、母親だった時。


ただひたすら鬼を狩るため、暗闇の中を1人、さまよい続けた時。


お節介で優しい兄弟子が死んだ時、お館様を守れなかった、ついさっきだってそう。



………まるで目覚めることが許されないような悪夢。







震える手でただその隊服を掻き抱き、声を上げて泣いた。


何故お前がオレに詫びる。

お前を守りきれなかったオレのことなど、いっそ恨んでくれれば良かったというのに。


溢れる涙を拭うことすら出来ず、ただそこに蹲っていれば。



「………不死川、行かねばならぬ」



顔を上げろ、と頭上に降ってきたその声も、ひどく硬かった。

兄と名乗れなかった自分の代わりのように、玄弥の世話をしてくれたのは、間違いなくこの人であり。



「無惨を倒すまで、終わりではない」



そうだ。

終われるはずがない。



(そうだ………………まだ、)



失っても喪っても、その宿願へと辿り着くまでは。

刀を下ろすことなど。



(………鬼殺隊、風柱として最期まで)



玄弥の隊服を掴んで立ち上がれば、大きな手で背を叩かれる感触。


ひとつ小さく頷いて、悲鳴嶼さんと共に再び、その場から駆け出したのだった。



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