《前編》改）言えない師範と言わない継子【不死川実弥】

23 : 聞こえた気がした ページ24

side 不死川実弥






吉原を訪れた非番明けのあの日から、担当地区外へと任務に出ていた。



慎重に、かつ巧妙に身を隠す鬼でも自分にかかれば、炙りだすのはさして難しくない。


腕に少々切り傷をこさえるだけで、鬼共はその匂いに、頼まずとも寄ってくるからだ。



「風の呼吸・参の型、晴嵐風樹!!」



ギャア"ア"ア"ア"!!と汚い断末魔を上げ、鬼の身体は塵となる。


これで3体、付近から鬼の気配は全て消えた。



忌々しい思いで刀に付いた血を振り払い、鞘へと納める。

斬りつけた腕に簡単な処置をして、喉へと水を流し込めば、知らずと出た溜息。






Aは今夜も無事だろうか。



己の任務や警備を、疎かにしているつもりはない。

だがこういった間隙をついて、その心配はいつも、頭をもたげてくる。



Aをここまで特別に思うのは、継子だからか……………それとも。



(ンなのとうに……………答えなんざ出てンだろ)



この想いを、認めたくないわけではない。

そう簡単に認められない環境というだけだ、今の自分達が属する世界は。



手を伸ばせば簡単に触れられる距離に居たって、本当の意味では手に入れられない、もどかしさ。



その時(・・・)が来るまではきっと、オレもAも。


やもすれば溢れそうになる想いに、蓋をし続けるのだろう。



宇髄あたりに聞かれれば、どれだけ不器用かと呆れられるに違いない。

それでもこれが、オレ達の。





(………………………………師範、)




ここからは相当の距離がある吉原の方角へと、目を細めた矢先だった。


いつもと変わらない、朗らかに自分を呼ぶAの声が、不意に聞こえた気がして。



(早く帰ってこい、A)



どんなにひどい傷が残ろうが、手足の1本や2本失おうが、そんなことは構わないから。


ただ、笑ってくれればいい。

命さえあればそれで。



祈りにも似たそんな思いを、柄にもなく胸内で言葉にしてから。



「………悪ィな爽籟。今夜も頼む」


「任セロ!!」



頭上を旋回していた鎹鴉が、吉原の方角へと飛び去って行くのをただ、見送ったのだった。



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