おおうそつき/1 ページ39
「おかえりなさい」
「……ただいま帰りました。」
帰ってきて早々、保健室で少し仕事をしようと寄れば見慣れた顔と出くわした。
そっと半分閉められたカーテンを覗くと、逆先くんが姿勢を丸めて寝息を立てている姿が見えた。
「……『ばくすい』ですね。さいきんねてないみたいなのでほっといて『だいじょうぶ』です」
「後輩を心配する言葉ですかそれ……」
実に説明しづらいのだが、こう、行動と言動が一致していないというか。
「A〜、ちょっと俺職員室行ってくるから留守番頼めるか？」
「いいですけど……さっきまで留守番役いませんでしたよね？」
「さっきアイツら……っていっても七種だけどな？ソイツに書類渡されちまってなぁ、一応保険だ保険」
「はいはい」
私は先生を雑に返し、見送った。
そして私は改めて先輩に向き直る。
「……しごと、てつだいますか？」
「いえ、大丈夫です。……ただ、空いてるとこが無いので椅子半分寄越せください」
「どうぞ〜……また『いちだん』とえんりょがなくなりましたね」
「今更です」
奏汰先輩と背中合わせで仕事を始める。
これが少女漫画ならば恋愛だかその辺に発展するであろうが私たちに最早そんな余地はない。
「……」
「……」
あとはただ黙々と仕事をするだけだ。
私よりも地味に高い身長には心底腹が立ったのは心の中にしまっておこう。
「おもいださないんですか？」
「……」
「ねぇ」
「……」
「A」
「……」
「『むし』ですか。じゃあ『いっぽうてき』にいいますね。」
「……」
「ほんとうはさいしょからおもいだしてるくせに」
柔らかいけど棘のある言葉。
「そんなことはないですよ」
「じゃあ『これ』はなんですか？」
ずい、と携帯を突き出してくる先輩。待受画面には、いつぞやの家で撮った集合写真だった。
「なーんか『いわかん』があるとおもったんです。ほら、ここ、ちあきのうしろ。」
私、奏汰先輩、衣更や凛月、そして守沢先輩が写る中、先輩が指差したのは映り込んだ写真立てだった。
さすがに目だけで追うには辛くなってきたので、逆先くんの足元のベッドを拝借して座る。
「……おぼえていますよね？」
「う〜ん……」
水色髪の子。間違いなく奏汰先輩の幼少期。
「……」
「覚えているには覚えているんですけど……」
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作者名：竜花 | 作成日時：2019年5月26日 12時
