ぼくの最終章/3 ページ29
「Aさん」
「……奏汰先輩。初めて呼んでくれましたね、名前」
あんずと別れると、入れ替わるように奏汰先輩が姿を見せた。
いつもの穏やかな笑顔は消え失せ、全くの真顔。なんとなく、いつだかの逆先くんに似た表情。あのときは……何だったのか。
「あなたは『だれ』ですか？A？ほとけさま？かみさま？それとも……『ぼく』？」
「何言ってるんですか？」
「あなたは、ぼくのしっているAじゃない」
何の事だ、本当に。
でも尚、私の死んだ魚のような瞳は彼を映す。
「……」
「なんで……なんで、」
はらり。
私は目を見開いた。今まで見たこともなかったくらいの悲しみに満ち溢れた顔。
それを飾るような、零れた涙。
なんで、なんて言われても。
「おぼえてませんか？……あのひ、『かみさま』に『あった』ひのこと。」
「残念ながら、記憶にありません」
「……そうですか」
訪れる静寂。もう日はかなり傾き、一等星が既に見えている。
「……」
「……──なら！」
視線を再び空に移そうとすれば、感情に任せたような大声でそれを阻まれる。
「ぼくがおもいださせます！……それくらい、『だいじ』な『きおく』だから！」
それでも、涙はとめどなく溢れる。
もうすっかりぐちゃぐちゃになった整った顔は、どこか見覚えがあった。
「……なら、全部先輩に任せます」
「……ぼくががんばれば、おもいだしますか？」
「ほら、充血してますよ。目ぇ閉じてください〜」
あえて答えは言わなかった。
それを誤魔化すように、あうあうとゆるい抵抗を掻い潜りながら、眉下や涙袋の辺りを押してやる。
それを目尻まで続ける。いつしか、目の充血に効くと母親に教わったことだ。
「……昔、深海の家には死んでも近づくなって、母親に言われました」
「……ぼくのいえですね」
「はい。……何か、あったんですか？」
一度手を止め、彼に軽く握られた手首を見据える。
「う〜ん……『かみさま』を、『おそれた』からじゃないですか？」
またいつものようにはぐらかされると思ったが、疑問系ではあるもちゃんとした返事が返ってきた。
「ぼくは『かみさま』でしたから。あぁ、このことはちあきかそうまにでもきいてください。どうも、ぼくは『せつめい』が『へた』なので」
「はぁ……？」
つい、高峯くんみたいな声を漏らしてしまった。
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作者名：竜花 | 作成日時：2019年5月26日 12時
