12枚目 宵の明星 ページ14
「あ、一等星」
「本当ダ」
まだ明るさが残る中、一等星は一段と輝きを放っていた。
「ていうか、なんで俺ら一緒に通学鞄抱えて話してるんだろーね」
「流れじゃなイ?ほラ、今日は教室の方荒れてたでショ」
別に断る理由もなくここにいるボク。やたらと静かなバルくんにはどことなく違和感を覚えないこともない。
「星は出てるのに月は出ないんだね」
「別に珍しいことでもないでショ」
「あはは、そうだね。ん〜、頑張ったら水星とか見えないかな〜」
「ハ?」
「ほら、一等星って金星でしょ?だったら、頑張れば太陽系全部見えたりしないかな〜って!」
「……夢があるネ……」
思った以上に呆れた声を出したボクはまた空を見上げる。淡い水彩みたいにどこまでも色を広げる空は見ているとなんだか少し悲しくなった。
「ねぇ、夏目」
「何?」
数歩先を歩いていたバルくんはふと足を止める。声色はいつもと変わらなくてそれでいて静かだ。
兄さんたちとはまた違う冷たい雰囲気があるような気がした。
「俺、やっぱりおかしい?」
「……そウ?いつも通りに見えるけド」
「嘘」
また、彼はピエロみたいな感情のない笑顔で笑った。ここ最近、こんな顔をしているのをよく見るな、とはなんとなく思ってはいたけれど。
「夏目、気づいてるでしょ?この学院が……いや、アイドル科がどれだけ腐って、間違った方向にいるのかなんて」
「そりゃ……マァ……」
自然と『台本』が入った通学鞄を持つ手に力が入る。
「……ま、いいや!ねぇねぇ夏目!また撮ってよ、写真!」
「エ、……ウン?」
急に人が変わったようなバルくんに翻弄されながらも慌ててカメラを取り出したボク。
もはや癖になっているのか、カメラを持った瞬間にレンズはバルくんに向けられていた。
「夏目は覚えてる?まだ桜が咲いてた頃の」
「キミを初めて撮った日でショ?あのうるささはそうそう忘れないから安心してネ」
軽口を叩きながらピントを合わせていく。ボクがカメラに顔を近づけるのを合図にバルくんはカメラに向かって笑いかけた。
それはもう、以前のように。
「あ、ついでに肉まん食べていかない?」
「もうそれでいいヨ……」
相変わらず弾丸のように話し続ける彼に、ボクは少し呆れながらシャッターを切った。
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作者名:竜花 | 作成日時:2019年8月15日 2時