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人の少ない小さな建物。
演劇部の方でよく貸し切りをお願いしているので、最早店長とは顔見知りだ。
いつしか唐突に、零が「雑談したい」とかほざいているので五奇人で集まった。
「ご注文を伺ってもよろしいでしょうか?」
友也くんのような、普通の子。
さっき横目に見た窓際の席にいた子。
先ほど聞こえてきた会話から、店長の身内だと聞いている。まぁ、バイトの子も二人三人くらいらしいし、人手が足りないのは当たり前だろう。
注文を聞き終わって、きごちなく裏へ戻って行く彼女を見守りながら、ふと足元を見た。
見つけたものを拾い上げる。
「おや?日々樹くん、それは?」
「落ちていました。おそらく、あのウェイトレス代わりの子のものだと思いますが……」
「へェ。随分可愛らしいネ?」
隣の魔法使いが言った通り、これぞ女の子といったパステルカラーの小さな袋。
「とりあえず、届けてきます」
「『行ってらっしゃい♪』」
マドモアゼルにも見送られ、カウンターで棚を物色していた店長に声を掛ける。
「あのすみません。さっきの子、これを落としていったみたいなんですが……」
「えっ、あぁ、Aのか……すみません、ありがとうございます。」
「えっと、彼女は?」
「すみません、ついさっき帰路についちゃいまして。」
「そうですか。……あぁ、まだそんなに経っていないですし、私が追いかけますよ」
「えっ、いやいや。お客様にそんなことをさせるわけには」
「いえ、大丈夫ですので。ということで零!ちょっと待っていてください☆」
外から裏口に回ると、丁度彼女が出てきたところだった。
「すみません、これ、貴女のですよね?」
「えっ、あ、本当だ。すみません、ありがとうございます。」
「いえいえ」
その時、私はあることに気づいた。
──この子は、私と目を合わせない。
「あ、よかったらこれ、差し上げます」
「ほぉ?」
「お礼というかなんと言うか……別に、大層なものじゃありませんし」
「そうですか。では、ありがたく。」
そう言うと、彼女はそれを私の手のひらに初々しく乗せ、走り去っていった。
……行動は友也くんと似ている。
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作者名:竜花 | 作成日時:2019年3月8日 20時