第弐拾参幕 ページ25
【その勇気は誰が為に】
その事実を突き付けられ、芥川は己の無力さに唇を噛み締める。この世界を何も知らない自分達にとって、正体を自ら晒すのは不利。
況してやマフィアという危うい存在で在るが故に、軍警(此処で何と云うかは知らないが)に追い掛けられれば、外を歩けない。
その状況を政府の狗は逆手に取り、Aを政府側に縛り付けようとしている。彼女の異能力は無敵とも云える【藤の箱庭】。
Aの異能の前では、殆どの異能力など無価値、塵芥と化す。間合い範囲内に入れば余程の使い手でない限り、瞬殺されて終わる。
理屈が何となく分かれば、模倣が可能。想像出来れば生み出せ、起こせる。間合いを広げれば、地球の滅ぼすことさえ可能な異能。
とは云っても欠点だらけな上に使い手が考え無しに使うから、特異点が何かと起こりやすい。だから、毎度辛い思いをするのだが。
『……は』
「貴様……!!己が云ったことを理解しているのか!!冗談にしては度が過ぎる!!」
「理解も何も、それが政府の望む結末です」
条野、という猟犬の輩は頭が太宰並みに回る。芥川にとっては殺りずらい相手であり、苦手な分類の人間であることは百も承知。
だが、ここで引き下がれば。Aは後先を考えない馬鹿であり、御人好し。承諾してしまうに決まっているだ。なら、自分が。
芥川が止めなければいけない。参謀と遊撃隊長である芥川が任務で同じになるのは、芥川がAの考えの甘さを正す為でもある。
『……分かりま』
「いい加減にしろ」
『龍くん……』
「少しは自分のことを考えろ」
なかなかの修羅場だが、見越した末広が溜め息をついて富醂の容器を塵箱に捨てた後。条野に近寄り、少しだけ呆れた瞳をした。
「……何ですか」
「諦めろ、条野」
「此処で引き下がったら、終わりですよ」
「保留にしとけば良いだろう。今はそれどころじゃない。俺達も身元を暴露することは避けたい」
「……分かりました」
『じょ、条野さん?』
「一先ずは保留です。情報共有には、同じ家に住んだ方が話が早い。一時休戦と云うことで承諾してあげます」
「何を偉そうに」
『すごーく上から目線……』
「後、鐵腸さんの癖に呆れた目をしないでください。とても不快になります」
気付けば夜。この世界の一日目を終えたことを窓の外から悟った敦は、この顔でやっていけるのか不安を覚えて、身震いをした。
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年10月18日 22時