第弐拾弐幕 ページ24
【後悔はするな】
「やはりそうですか」
今日購入したばかりの家に、条野の声が響いた。キッチン脇に置いた机で、肘を付く。それと相対するようにAは座っている。
それを固唾と見守る二人と、ひたすら富醂(プリン)を頬張る一人。まだ繋がれた手錠。Aが指を鳴らすと鍵が開いて落ちた。
『……此処で条件を出します』
「何でしょう。此方に利益(メリット)があるのなら、乗ってやりますが」
外れた手錠を懐に閉まった条野。僅かな動きにも目を光らせる芥川を、敦が必死に宥める。警戒のし過ぎは良くないだろう、と。
『この世界の一般人として暮らして下さい』
「……対価は?」
『衣食住の共有です』
「断ります」
『なっ……!?』
目を見開く。正体、否。異能力が暴露されれば、戸籍もない状態で怪しまれる確率は上がる。だからこそ、存在を広めたくない。
それが理解できる筈の条野は相変わらずの微笑みを浮かべ、首を傾けた。その仕草には、探るような行動が伺える。つまり、だ。
『利益(メリット)がないとでも?』
「元はと云えば、貴方と護衛対象の責任です。衣食住などどうにでもなる」
『それはそうです、けど……』
「為らば、責任を取ってもらっても良いですよね?其の約束を守る代わりの対価を希望します」
人差し指を立てて、薄ら笑いの口角を上げる。それを見つめたAは、うっすらと瞳を細めた。嗚呼、何と賢い猟犬なのだろう。
自身の利益の為に、どんなことも利用するなんて。悪どいことだ。其処らの犯罪者よりも、余程タチが悪い。まるで義父のようだ。
限度がきた芥川が、椅子から立ち上がる。それを横目で見る末広と敦。より一層、深く微笑みを刻んだ条野は芥川の怒りを感じた。
軽い殺気と共に芥川の背後の黒布が伸ばされ、条野の喉のすぐそこで停止する。依然、余裕そうな態度を貫く彼を芥川は睨んだ。
「貴様……!!」
「はい?」
「Aは我等マフィアの参謀。貴様の喉笛をかっ切らずに生かす、Aの寛大さを受け止めよ」
『止めて』
制止の一言を紡げば、不満げな芥川の黒布が本来の形に戻っていく。条野はAに向き直り、懐から書類と鉛筆を取り出した。
「貴方の身体と交換です」
「……言い方が卑らしい」
「人虎、黙っていろ!!」
「怒鳴るなよ、馬鹿」
『……猟犬に大人しく捕まれと』
「国からの命でして」
『……』
「貴方の保護して猟犬に入れるように、と」
「「は?」」
芥川と敦の声が空しく響いた。
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年10月18日 22時