22-苦い記憶と神頼み- ページ23
ザァァァ、と蛇口から水の飛び出す音がする。洗面台に水を張り、それを掌で掬ってゴシゴシと顔を洗う。
何度目かのそれの後に蛇口を閉め、手をついて顔をあげた。
……ひでー
自嘲混じりに溜め息を吐く。
鏡に映った自分は、眉も目尻も不安げに下がっている。オーディションの結果に恐怖する、等身大の和泉三月がそこにはあった。
ここに来るまでの様々な苦い思い出が、頭を過っては消えていく。
オーディション会場で向けられた、舐めるような視線。ある者は色眼鏡をかけたような好奇の瞳。ある者は余裕と自信の宿った瞳で。
実技オーディション中に聴こえた溜め息。眉間に手をあてがっている審査員の男。
後日届いたのは不合格の通知。
繰り返すうちに、自暴自棄になっていた。
片っ端からがむしゃらにオーディションを受け続け、見事なまでに全て落ちた。例え一次に通っても、必ず二次で落とされる。上げて落とされる感覚の悔しさが蘇って歯噛みする。
八つ当たり染みたことを弟たちにしてしまったのは、不合格通知と同じくらい苦い記憶だろう。
自分の在り方に横から口を出してくる一織を突き飛ばした己の掌の冷たさ。顔をあげた一織の哀しそうな表情。
そんな自分達を少し離れたところから見て、バランスを保ってくれた億斗のあたたかさ。密かに心配の色が混じった眼差し。
心配も迷惑も、もう掛けたくない。
台についたままの掌をぎゅ、と握る。
俯いた顔の鼻先から水滴がポタリと落ちた。静まり返ったトイレの中で木霊する。その音はまるで、三月の虚しさを表したようだった。
震える声で、絞り出す。
「……神様……っ」
今度こそは、どうか。
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久薙聖楠(プロフ) - 真紅さん» きゃー!!!そっちです!!!!ずっと直そう直そうと思って忘れてましたありがとうございますすみません〜〜〜〜!!!!!恥ずかしいし申し訳ない(´;-;`) (2018年4月16日 17時) (レス) id: ae62bd0b5f (このIDを非表示/違反報告)
真紅(プロフ) - すいません!スペックのfpはピアノフォルテではなく、フォルテピアノと読むのではないですか?(あえてピアノフォルテと表記してるならすいません!) (2018年4月16日 14時) (レス) id: bfa0214c95 (このIDを非表示/違反報告)
久薙聖楠(プロフ) - アユラさん» ありがとうございます!!!頑張って書き続けていきます!!!(・д・ = ・д・) (2018年4月15日 15時) (レス) id: ae62bd0b5f (このIDを非表示/違反報告)
アユラ - メチャ面白くないすかこの小説...(°_°)ハマりましたよwこれからも更新頑張ってくだせぇなd( ̄  ̄)応援してますよ( *`ω´)ファイトだぜぇ!!w (2018年4月14日 23時) (レス) id: 22855408aa (このIDを非表示/違反報告)
久薙聖楠(プロフ) - 夢巫女さん» ありがとうございます!!!伏線張っていきたいと思いますが、張りすぎて先が読めたり「思ったより内容ショボいじゃねーか」とはならないように気をつけたいと思います(笑)今絶賛執筆途中ですのでもう少しだけお時間ください!!_( _´ω`)_ (2018年4月13日 22時) (レス) id: ae62bd0b5f (このIDを非表示/違反報告)
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