ゼルトザーム屋敷の冒険【オリジナル】 (ページ10)

今日:10 hit、昨日:5 hit、合計:3,999 hit

第１０話　ゼルトザームからの手招き２ページ10

　脳内回想が終わる。あー、そうそう。それで今こうなんだ。入るか否かどうしようかと３人で話し合っているんだ。ルー君もフリッツさんも私も、そんなハイリスクな事は出来ない。って同じ意見になった。

「えーと、ですね。その……」

　フリッツさんが困ったような笑みを浮かべながら、おじさんに話しかける。

「お心遣いは嬉しいんですが、やっぱり遠慮しておきます。少し待てば、この吹雪も治るでしょうし……」
「いいえ、ここらで降る吹雪はそう簡単に止みません。それに、あなた方の体は濡れていらっしゃる。この寒さの中では耐えられないでしょう。暖炉の側で温まるのが宜しいかと思います。ご安心ください、主人はお優しいお方です」
「い、いやあー……でも、ねえ？ご迷惑でしょうし……」

「お客様」

　引き下がろうとしたフリッツさんを、一つの声が止める。穏やかでいて柔らかい、それでいて心地の良い低めの声が。

　私達の視線を一瞬で集めたその人は、肩より長い淡い茶色の髪を一つに結んで、燻んだ緑色の瞳を持つ垂れた目はハッキリとした二重、実年齢は分からないけれど若い見た目の男性だった。
　手触りの良さそうな立派な服は、純白に薄く赤を溶いたような色合いだった。

「我々は困っているお人を見捨てる事など致しません。さあ中へ、お子様方の健康にも触りますし……」
「あ、えーと……？」
「おや、申し遅れました……私、当屋敷の主人であるジークヴァルト・ベルトラムと申します。隣に立っているのは執事のホルスト・シュトラッサーでございます。以後お見知り置きを」

　当主自身が恭しくお辞儀をするので、私達もお辞儀をする。フフ、とジークヴァルトさんは笑った。なんて淡い微笑みをする人なんだろう、心臓がドキン、と波打った。

　ジークヴァルトさんとホルストさんは、さあさ中へと手招きする。その手招きの仕方は、サプライズを用意する友人とか、久しぶりに孫を見た老夫婦のようで……不思議と嫌な感じがしなかった。それどころか、暖かささえ感じさせる。

　フリッツさんは、どうするかと聞かなかった。でも例えそう言ったとしても、この時の私達は"中に入る"以外の選択肢はしないと思う。濡れた体が吹雪の中で耐えられるはずもなく、小刻みな震えは増すばかり。
　どんなに危険だとしても、私達はその一歩を踏み出さずにはいられなかった。