第33話 あの物売りは気味が悪いと君は言う1 ページ33
「ルー君」
もう押さないで! と言うとルー君は「ごめん」としょぼくれた声で謝った。紫色の瞳が私の手に握られたボールペンを見つめる。ハア、と小さなため息が静まり返った廊下に響いた。
「あのレナータって人、不気味じゃなかった?」
「そ、そう? 破格のお値段でボールペンを売ってくれたから悪い人には見えなかったけれど……」
「値段で人の善し悪しを決めるとロクな事にならないよエラちゃん」
はい、ごもっともな意見です。でも高級そうな物を安く売ってくれる人に悪い人って居なさそうじゃん……脳味噌が善い人! って勝手に決めちゃったんだよ。
「具体的には何処が不気味だと思ったの?」
「彼女の言った『アタシの店では何でも買えちゃうんだよ! 客人が欲しいと思ったものならなーんでもね!』っていう言葉だよ。ペットボトル飲料やボールペンならともかく、黄色いゼラニウムの花を客人が"欲しい"と思っているなんてどうやって推測できるのさ?」
「し、仕入れ先に花屋さんがあって、たまたまゼラニウムも入荷していたんじゃ……?」
ルー君はフルフルと首を横に振った。
「ティアナさんは僕が花の事を尋ねた時、花言葉を教えた後で『貴方達に会えた事が嬉しくって、このペットボトルと一緒にレナータさんの店で買ったんだ』って言った。僕達はゼルトザームの屋敷の住民達にとって予期せぬ客人で、だからこそその出会いを喜んでティアナさんは買ったはず。そんな急な注文を難なくこなしたのって、不気味じゃない? 予測して仕入れ先に注文したんだとしたら、こんなに早く到着しないはず」
それに、とルー君は普段より一段低い声で言う。ああ……この声は推理ドラマの犯人を解いている時に自分の思考を纏めようと物語の内容を反芻している時の声だ。
「ハイメンダール巡査が言っていた、このゼルトザームの噂……『森にある"ゼルトザーム屋敷"にゃ気をつけな。あそこは不気味な噂が絶えねえんだ。一度迷ったら最後。屋敷の住人の正体を見抜かない限りお家に帰れやしねえ。柔い狂気が立ち込めるこの屋敷を、狂わずに出れるか、どうか……そいつぁ、お前さんの気力次第。ってなもんよ』っていうの覚えているよね?」
「うん」
「そんな噂がある屋敷に仕入れをする物好きな問屋って、あるのかな。気味悪くて不気味で、それでも好奇心をくすぐるような噂……仕入れのトラックが行き来する場所だったら囁かれないよね」
第34話 あの物売りは気味が悪いと君は言う2→←第32話 物売りのレナータ2
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ルツ・ヒューイット(プロフ) - ぼうきれ/新藤緋色さん» なるほど、ありがとうございます! (2021年4月3日 18時) (レス) id: 8219e67f68 (このIDを非表示/違反報告)
ぼうきれ/新藤緋色(プロフ) - ルツ・ヒューイットさん» 確か、エラという名前には美しいという意味があったはずです。平凡な見た目でも芯の真っ直ぐな美しい子、というイメージで名付けました。 (2021年4月3日 18時) (レス) id: 5f459e3a39 (このIDを非表示/違反報告)
ルツ・ヒューイット(プロフ) - 主人公のエラちゃんのお名前って可愛いですよね。この名前にしようと思ったきっかけは何ですか? (2021年4月3日 18時) (レス) id: 8219e67f68 (このIDを非表示/違反報告)
ぼうきれ/新藤緋色(プロフ) - ルツ・ヒューイットさん» そこら辺もまだ語れません……今後に乞うご期待です! (2020年11月4日 10時) (レス) id: 9dfed805b5 (このIDを非表示/違反報告)
ルツ・ヒューイット(プロフ) - そういえば思った事ですが、幽霊や心霊現象も含まれますか? (2020年11月4日 7時) (レス) id: ac128bc03f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:新藤緋色 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/homepageofSHS/
作成日時:2020年3月29日 23時