◆舵取り[一等航海士] ページ45
眠れないというのは中々に厄介な物で、この荘園でも藁にもすがる思いで不眠症の治療法を探す者は多くいた。
そして彼女もその一員で。
｢目を閉じて。気分は如何かな？｣
｢うーん…わるくは無いけど、お酒くさい｣
｢ははっ｣
催眠術に活路を見出して私の元を訪れた人々の殆どは、がっくりと肩を落として帰って行く。
術の効力には個人差があるのだが、運良くAはどうやら効きやすい体質だったらしい。…いや、不運な事にと言うべきか。
ともかくこうして彼女の部屋を訪れ、寝かしつける事は私の日課になっていた。
落ち着いた声色で、彼女を微睡みへと導く。
｢ゆっくり深呼吸して…そうだ。息を吐くたびに体の疲れが抜けていく…｣
次第に呼吸が深く、規則的なものになったのを確認して次の段階へと移る。
彼女の不眠は、過去に起きた心的外傷の為だ。それを取り除いてやればいいだけなので、催眠自体は手短に終わる。
自分の事も解決出来ない癖に、我ながら笑えてくる話だ。その上、私は＿
｢…なぜ、君は眠ってはいけないのだ｣
｢私がねたら、みんなが死んじゃう｣
｢では、私が代わりに起きていよう。大丈夫さ、誰も死なせやしない…｣
｢…うん｣
｢それから、｣
＿きっと、そう。魔が差しただけなのだ。
｢君の想い人はホセ・バーデンだ。…彼への想いを言ってみたまえ｣
｢……好き、ホセが好き…｣
｢…いい子だ。｣
彼女が私にだけ向ける焦がれたような眼差しも、赤く染められた頬も、全ては私の虚偽と欺瞞による物なのだ。
術など、いつかは解けてしまう。彼女を永遠に引き留めておく魔法なんて、真実の愛以外に存在しない。
この行為が生み出すのは虚しさだけ。
そう分かっていても、彼女に偽る事を止められないでいた。
ほんの少しの罪悪感と、彼女が私の名前を呼ぶ度に引き起こされる多幸感。どちらを取るか、もう分かっているだろう。
｢どんどん、深海へと意識が沈んでゆく…｣
正気に戻った時は、こんな男に愛されてしまった事を酷く後悔して、私の事を拒絶してくれればいい。
もう二度と私と口を聞かなくたっていい。
だから、どうか今だけは。
｢おやすみ｣
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ステラテス(プロフ) - チャカポコさん» コメントありがとうございます！褒めていただけてとても嬉しいです、おじょぜの魅力を最大限引き出せるようこれからも精進して参ります。 (2021年5月1日 1時) (
レス) id: 6c8573e34b (このIDを非表示/違反報告)
チャカポコ(プロフ) - おじょぜの話、とても好きだ… (2021年5月1日 0時) (レス) id: ac5889fea8 (このIDを非表示/違反報告)
ステラテス(プロフ) - 道影さん» コメントとリクエスト共にありがとうございます！そう言って頂けて本当に嬉しい限りです。時間が空いてしまいましたが、リクエストして頂いたお話の更新が終わりました。どうぞこれからもこの作品をお願いします。 (2021年4月28日 0時) (レス) id: 6c8573e34b (このIDを非表示/違反報告)
道影 - すっごい面白いです！めちゃニヤけが止まらへん…(笑)あとリクしても大丈夫でしょうか？大丈夫でしたらVAL組で狂愛お願いしますっ！ (2021年4月12日 21時) (レス) id: 28f2bba1fe (このIDを非表示/違反報告)
りりな - リクエスト応えてくれてありがとうこざいました、、！やっぱりこの短編集の雰囲気だいすきです、！！ (2021年4月3日 19時) (レス) id: 88b3cccd14 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ステラテス | 作成日時：2021年2月13日 23時
