孤独の氷 Ⅱ 【被虐のノエル】 (ページ9)

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・ページ9

「両手両足を失って、海に突き落とされても……」

「市長官邸で迎撃されても、魔人と戦っても、そして…海の底に閉じ込めても。
じりじりと這い上がってくる…ノエル様｣

「そのゴキブリのような生命力だけには、私も感嘆しております」

スピーカーの向こうでほくそ笑んでいるであろう、シビラに。
ノエルが沸々と怒りを募らせているのは、気付いていた。

「…シビラ・ベッカー。思えば事の始まりは貴女との接触からでしたわね」

「廃ビルでのやり取りも、懐かしいものですね」

「わたくしは市長に復讐すると決めましたの。そのために…カロンと悪魔の契約だってしましたわ」

静かに語っているのが、余計に不気味に思える。
ノエルは矢継ぎ早にまた言う。

「でも実は、その前に…やるべきことがあったんですの」

「これまで後回しにしていたのが不思議なくらい………それこそが、わたくしにとって始まりというのに」

「…………そう。あなたにも復讐しないといけませんの」

赤い片目が、スピーカーを射抜くように見詰めている。
ノエルの表情は、怒りを通り越し、笑っている。

「(ノエル…いい顔をするようになった。けれど、感情の制御が出来ていない。
それほど憎い相手なんだ、あの女は。ノエルからピアノを奪った、張本人だ。)」

自然と、ミシェルの心にも怒りが沸いてきた。
無機質な女の声が、途端に憎らしく思えてくる。
だが、拳を握り、その怒りを抑えた。

「あなた方はここから生きて出ることは出来ない。この管理者用入口は既にロックさせて頂きました。強力な水圧にも耐える重装甲です。悪魔の力でも開けることは不可能でしょう。」

そして…。

ブーーっ！というサイレンにも似た音と共に、水路から水が出て来た。
滝のような勢いで水が流れ落ち、先程まで通ってきた通路が水浸しになっていく。
扉を開けるのは容易ではないだろう。開けるにしても時間が掛かる。

「今から僅かな隙間さえ残さず、その迷宮内は海水で満たされます。
どうせ悪魔の力を借りなければ何も出来ぬ身、ならばそのまま海の藻屑となってください」

「今度こそ、ね？」