孤独の氷 Ⅱ 【被虐のノエル】 (ページ10)

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・ページ10

ブツん、とアナウンスは切れてしまった。

辺りには水の流れ込む音しかせず、皆が黙り込んで。
だが、沈黙は破られた。

「どうする、開くか試してみる？」

ミシェルだ。彼女から声を上げるのは珍しい。
ノエルは頭を横に振り、力無く呟いた。

「無駄だと、思いますわ…」

「だろうな。あの女のことだから抜かりは無いだろう」

時間を掛ければ開くかもしれない。だが、時間は残されていない。
こうしている間にもだんだんと海水が流れ込んで、あっという間に一杯になる。
どうするべきか。思っていた事がミシェルの口から溢れた。

「ノワール…何か打開策は無い？」

「無いな。妾は戦闘系でも無いからの、この鋼鉄の扉も打ち破れん」

おどけたような仕草をするノワール。

「だが、お前が契約すればそこの2人も含めて出られるかもしれんの…ま、お前に意思があれば、だがな」

「冗談じゃない、これ以上代償を払ったら真面に戦えない」

ミシェルは大真面目にそう言った。
そう、彼女にとって契約は「命をかけたもの」。それをポンポン使ってしまうほどミシェルは軽薄ではない。
分かっていた、とでも言うようにノワールは微笑んだ。

「して、カロンとノエル。お前達の方も何とかなったか？」

まぁな、とカロンの声が返答した。
どうやらあちらの問題も片付いたらしい、ノエルの顔が何だかすっきりしているように見える。

「成程、水路から脱出するか。｣

この、水が流れ出てくる流入口から脱出する。
確かにもうそれしかないだろう。だが、問題はどの水路にどのくらいの時間が掛かるか、だ。
下手すれば何分、いや何十分掛かりうる。
生憎ミシェルには特別優れた聴覚は持ち合わせていない。直感で行くしかないのか…

そのとき。

「正面、右一つめ」

ノエルがふと、ある水路を指差しで言った。

「音の反響、高さから考えておそらくあの穴です」

「…よく分かったね、凄い」

「わたくし、ピアノをやっていた身ですから。耳には自信がありますの」

こうしてノエルが言い当てた短い水路が決まった。

まず、ミシェルとノワールが先行し、流れてくる障害物を壊していく。
その後をノエルとカロンが追うという形で。

・

とうとう水が一杯になる。

「ミシェル、少し辛抱せい。お前は必ず妾が生きて帰すでな…」

ミシェルは頷き、息を止めた。
そして、少し暗い流入口の中へ潜って行った。