孤独の氷 Ⅱ 【被虐のノエル】 (ページ3)

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ぽろん。
ピアノの音が、鳴った。
それを弾いたのは、ノエルの細い左手(・・)だ。

彼女は大悪魔、カロンと《第三の契約》をし、左腕を取り戻した。
しかし、その代償はその美しい色の右目だ。
ノエルの右目は眼帯に覆われている。

その様子を、壁にもたれかかってミシェルが見ている。
相変わらず何を考えているのか分からない目で、ノエルをじっと見ている。
彼女の瞳も赤だが、ミシェルの色は血が滲んだ様な赤だ。

「 …そのピアノ、狂ってるね」

「えぇ、そうですわね」

このピアノは調律がされていなかったからか、音はすっかり狂っていた。
それでもノエルは少しでも音を聴けて嬉しかった。
感慨に耽っていると、隠れ家の扉が開く音がした。

入ってきたのは、カロンとノワール。
カロンは新聞を机に投げ捨てた。
こんな場所でも、新聞は来るのか、彼は何時も何処からか調達してくる。
最早これが日課になりつつある。

(…何時もどこから取ってくるんだろう)

「早速、ピアノの練習か」

「こんな音の狂ったピアノは耳に毒ですわ。
それに、やっぱり両手が無いと。
でも、これで拳銃が一発や二発撃てるようになりましたわ」

ノエルは左手を広げたり閉じたりしている。
その左腕は、今までピアノの為に使われてきて、本来は復讐に使うものでは無かったはずだった。
ミシェルはそんなノエルを見て、自分の拳を握り締めた。