14、難儀だね ページ14
店内は俺と帝統の他に客は居らず、落ち着いた雰囲気だった。
柑橘系のさっぱりした香りが清潔感溢れる店内によくマッチしていて、非常に好感を覚える。
「おー、いい感じだな」
「そうね、お洒落だ」
俺と帝統の何気ない称賛に、商品棚を整理していた店員さんはありがとうございます、と微笑んで頭を下げた。
礼儀正しい人だなあ、なんて思いながら俺も軽く会釈しそのまま食器の並ぶスペースへ歩を進める。
一方の帝統はクッションなどの布物が置かれた棚を見に行ったようだった。
そういったものには無関心そうに見える彼だが、興味があるのだろうか。なんなら買ってあげよう。
「あ、これいいなぁ」
手に取った皿を見て、思わず感嘆の声を漏らす。
水彩調で描かれた植物の緑が皿の白によく映えていて、綺麗だ。
思わず帝統の分だけでなく自分の分までカゴにいれたところで、今度は可愛らしい猫のマグカップが視界に飛び込んできた。
取手の部分が猫の尻尾をかたどったものになっており、どうやら二つ合わせるとハートを描くようになっているらしい。
とどのつまり、恋人同士が使うようなペアマグである。
「うーん……」
俺は、思わず唸る。
実家で猫を飼っていた身としては是非ともお買い上げしたいのだが、さてどうしたものか。
男同士、なおかつ付き合っているわけでもなく間柄はただの同居人。
そんなやつに突然ペアマグなんて渡されたらさすがの帝統だって困惑するだろう。
少なくとも俺なら戸惑うな、と思うとカゴに入れる気にはならなかった。
俺と帝統が恋人同士だったならば、何の迷いもなく買っていたのにな。
愛らしい二匹の猫に、ごめんね、と心の中で呟き視線を逸らす。大人しく帝統が一人で使う用の別のマグカップを探そう。
「A!いいの見つかったか?」
「っわぁ」
――と、例の同居人が急に死角から現れ、そのままの勢いで肩を組んできた。
突然のことだった上、先刻まで彼について考えていたことから心臓がきゅ、と縮こまった。
本当に心臓に悪いやつである。
「マグカップ?」
「あー……うん、そう。でもまだいいの見つかってない」
俺らが使えないものならいい感じのやつがあったのだが。
とは伝えなかった。
帝統は、ふーん、と陳列棚を見つめていた。
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おと姫と愉快なサカナたち(プロフ) - 帝統の小説少ないからありがたいです!更新頑張ってください! (2021年11月11日 1時) (レス) @page16 id: e21618e8ed (このIDを非表示/違反報告)
さぁら(プロフ) - 素敵です。好きです。(語彙力)更新頑張ってくださいっ! (2018年12月6日 23時) (レス) id: 50e6c7827a (このIDを非表示/違反報告)
翡翠 綴(プロフ) - 夏蜜柑さん» 頑張ってください !! 楽しみにしてます !! (2018年9月17日 18時) (レス) id: a0e587eb3a (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 翡翠 綴さん» コメントありがとうございます!素敵だなんてそんな、とても嬉しいです(;;) 遅筆ではありますが更新頑張りたいと思います〜!! (2018年9月17日 18時) (レス) id: d7baab8fea (このIDを非表示/違反報告)
翡翠 綴(プロフ) - あぁぁあ … 素敵です 。更新頑張ってください 。 (2018年9月17日 3時) (レス) id: a0e587eb3a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏蜜柑 | 作成日時:2018年8月23日 22時