1、誘拐じゃないよ ページ1
日曜日。
一般に休日と呼ばれるそれを仕事に使う道具や数日間外に出なくても暮らしていけるだけの食料を買うことに費やした俺は、重たい荷物を両手に帰り道を急いでいた。
朝家を出たときには元気に顔を出していた太陽はすっかり沈み、時刻は22時半。さすがに遅くなりすぎたなと思いつつ、人通りの少ない路地を淡々と進む。
――と、そんな俺の進行方向に、何やら黒い影があることに気付いた。
「……まさか幽霊とかじゃないよな」
訝しく思いながら恐る恐る近づいて行くと、それは人間であることがわかった。超常的なものでなかったことに安心しつつ、今度は何故この人物はこんな道の脇で座り込んで寝ているのだろうと疑問が湧いてきた。
黒いファー付きの青丹色のコートに身を包んだその青年の頬を試しにつねってみると、彼は眉を寄せて顔を背けた。
青年が顔を動かした際に揺れた髪の毛は街灯に照らされてつやつやと煌めき、それがあまりに綺麗で俺は思わず瞬きをした。
よくよく見ると寄せられた眉の下にある睫毛は一般的な男性のそれに比べ大分長いし、鼻筋も綺麗に通っている。
「――美人だ」
つい漏れ出た感想に、何を言っているんだ俺はと口を抑えつつ、彼をこのままにしていくのも何なのでその肩を揺すってみる。
が、余程疲れているのか青年は一向に目を覚ます気配がない。
どうしたものかと悩みつつ、正直俺はこの青年に興味を抱いてしまった。もっと彼のことを知ってみたいのだ。
かくなる上は――……
冷蔵庫に入っていたベーコンと、冷凍のほうれん草、茹でたてのパスタをバター醤油でフライパンにかける。バターの溶けるジュージューという音がなんとも食欲をそそる。
あの後、結局俺はその時持っていた大量の荷物を一旦家に運んでから青年のいた場所へUターンし、彼も家へ運んだ。
多少の犯罪臭には目を瞑ってほしい。これは慈善活動だ。路頭に迷っていた青年を保護した、それだけである。決して犯罪ではない。
そんなこんなで家へ連れてきた青年は、現在リビングのソファーでぐっすりしている。
ソファーへ寝かす際に改めて明るい場所で青年の顔を見てみたが、やはり尋常ではない程に整っていた。
と、そんなことを振り返っている間にすっかり出来上がったパスタをフライパンから上げて、二人分の皿に盛り付ける。
23時20分。びっくりするぐらい遅い即席夕食の出来上がりだ。
刻み海苔をふりかけつつ、どうやって青年を起こそうか考えていると――
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おと姫と愉快なサカナたち(プロフ) - 帝統の小説少ないからありがたいです!更新頑張ってください! (2021年11月11日 1時) (レス) @page16 id: e21618e8ed (このIDを非表示/違反報告)
さぁら(プロフ) - 素敵です。好きです。(語彙力)更新頑張ってくださいっ! (2018年12月6日 23時) (レス) id: 50e6c7827a (このIDを非表示/違反報告)
翡翠 綴(プロフ) - 夏蜜柑さん» 頑張ってください !! 楽しみにしてます !! (2018年9月17日 18時) (レス) id: a0e587eb3a (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 翡翠 綴さん» コメントありがとうございます!素敵だなんてそんな、とても嬉しいです(;;) 遅筆ではありますが更新頑張りたいと思います〜!! (2018年9月17日 18時) (レス) id: d7baab8fea (このIDを非表示/違反報告)
翡翠 綴(プロフ) - あぁぁあ … 素敵です 。更新頑張ってください 。 (2018年9月17日 3時) (レス) id: a0e587eb3a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏蜜柑 | 作成日時:2018年8月23日 22時