21 懐かしかったから ページ22
復帰から三日目の朝。昨日と同様、少し早めに登校して、ひとりぼっちの教室に荷物を置く。
机にはいくつか悪口が書かれていたけれど、ペンじゃなくて鉛筆で書かれてるのが唯一の救いだった。見なかったことにしよう。消せば何もなかったことになる。そうやってペンケースから消しゴムを出して必死に擦った。
殆どの言葉は消してしまえば割り切ることが出来たけれど、"プロデューサーやめろ"なんて言葉だけが、やけに頭を占領するのだ。
震える右手から消しゴムが落ちる。ぼやける視界でも地面にぼたぼたと涙が溢れるのが見えた。
どこかに逃げてしまいたかった。夏目くんは何だか気まずいし、B組のみんなに頼りきりも嫌だなぁ。
一人そんな事を考えていれば、キュッ、キュッと規則正しく机を擦る音が聞こえてきて、突然のことに慌てて顔を上げる。
「氷鷹、くん……」
彼は黙って私の机を消しゴムで擦っていた。
みるみる落書きが消されたかと思えば、彼は黙ったまま、けれども何か言いたげに私の目の前に立って。
「本当にすまなかった」
久々に話す彼に、拒絶されるでも罵倒されるでもなく、深々と頭を下げられた。
そっと彼に手を伸ばせば、殴られると思われてるのかぎゅっと目を瞑られる。アイドル相手にそんなことできないし、そもそもそんなことしないけど…
「…っはい、直った」
寝癖ができてたと伝えれば少し恥ずかしそうに「すまん」と目を逸らされる。
不意に、一年前の記憶が呼び起こされる。
昔の彼は髪の毛を三つ編みにしていたけれど、その日は慌てていたのか少し崩れていて。特別仲が良かったわけでもないのにお節介癖でつい声をかけて、有無も言わさず無理やり結び直したんだけれど…彼はもう覚えていないのかな。
「…私に謝る為に、そんなに慌てて登校したの？」
私の一言に氷鷹くんはまたぶわっと顔を赤らめる。でも一向にそれを否定しない彼が可笑しくて、つい笑ってしまった。
「久し振りだ」
その言葉に首を傾げるけれど、結局彼には何でもないと誤魔化された。
「…そろそろクラスの人来ちゃうよ」
それは気の利かない私なりの配慮。
クラスの人…つまり彼と仲の良い遊木くんや明星くんも来る。私なんかと話している所が見られたらまずいよ、なんてそんな意味を込めて彼を見れば、彼は少し不貞腐れたように私を見る。
「俺はお前に助けて貰ってばかりだ。
…なのに、あの時の俺は何もしてやれなかった。」
ちゃんと返せないのは俺が嫌なんだ。
真っ直ぐなその目に、否定も肯定も出来なくて。
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かなかなかな… - ありきたりな言い方になってしまいますが、ものすごく感動しました。所々泣きそうになってしまったり、最後はものすごくニヤニヤしたり。読んでいてとても楽しかったです。素敵な作品をありがとうございました！！ (2022年3月29日 19時) (
レス) id: 62f4ed090e (このIDを非表示/違反報告)
みる - 最後のタイトル回収がほんとうにすごかったです！めちゃくちゃ楽しませていただきました！！ (2021年9月21日 17時) (レス) @page50 id: 8126ce0406 (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - ふわり｡さん» コメント・ここまでお付き合い下さり有難う御座います。こちらこそ、これからもお付き合い頂ければ嬉しく思います笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - 哀霞さん» コメント有難う御座います。そう言って頂けて幸いです…励みになります。次回作の方も宜しくお願い致します笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
ふわり｡ - 完結おめでとうございます！雰囲気も素敵でエピローグまで一気に読んじゃいました（笑）これからもファイトです！ (2019年8月21日 17時) (レス) id: 9c497f6a6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：繕 | 作成日時：2019年7月31日 11時
