46 夏のせいだから ページ47
その後すぐに学校を出た私たちだったけれど、どういうわけだか、夏目くんに私の家まで送ってもらうことになっていた。
やっばり彼は根の優しい人なんだろう。
何度断っても「夜遅いから」とか「一応病み上がりだから」なんて言って無理やり付いてきてくれたのだ。…「いつまた倒れて眠るわからない」なんて言われたのは心外だけれど。
二人並んで暗くなった道を歩く。
鞄を持つ手を彼のいない左側にすれば、持ちなれていないからすぐに肩からずり落ちる。
いつもよりもちょっとだけ歩幅を小さくして歩けば、彼は歩きにくいだろうに、何も言わずに私のスピードに合わせてくれて。
盛り上がるような会話こそないけれど、それはお互い気を使っている訳ではなくて、気付けば家の戸が見えてくるから、なんとなく、名残惜しくなる自分がいた。
( 時が止まってくれればなんて、思ってても言えるわけないなぁ。)
口を噤んで彼の隣から離れたその時。
ぽつり、
彼が溢したその言葉を、私は聞き逃さなかった。
「 時が止まればいいのに 」
つい振り返る。
目と目があった彼は、いつものような不敵な笑みじゃなくて、耳元を少し赤らめた普通の男の子で。
同じことを考えていた。
それが何よりも嬉しかった。
「…嘘じゃない…？」
恐る恐る言葉にしてみれば、彼の頬がみるみる赤くなって、そうして「…嘘じゃない」と目を逸らされる。
「顔が赤いよ」とかいつもの仕返しに意地悪をしてみれば、彼はムキになって「うるさい」とか片手で私の頬を掴んだ。
「話し難いよ」なんて彼の手から逃げようとするけれど、彼も夢中になってその手に力を入れて。
一瞬、二人の顔が近付く。
気まずくなってすぐに目を逸らした。
…それで更に気まずくなるのなんてわかっているのに。
＿沈黙。
「…夏のせいだ」
話すだけでドキドキするのも。
一緒にいると時間が経つのが早いことも。
なにか言われると顔が熱くなるのも。
全部、全部。
全部、夏のせいにしてしまおう。
柔らかい感触は、今度は鼻じゃなくて唇に落ちた。
( 好きになってしまったのも、きっと、夏のせいだから。)
月の光が二人の重なった影を作る。
＿＿それは、涼しい夏の夜のお話。
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かなかなかな… - ありきたりな言い方になってしまいますが、ものすごく感動しました。所々泣きそうになってしまったり、最後はものすごくニヤニヤしたり。読んでいてとても楽しかったです。素敵な作品をありがとうございました！！ (2022年3月29日 19時) (
レス) id: 62f4ed090e (このIDを非表示/違反報告)
みる - 最後のタイトル回収がほんとうにすごかったです！めちゃくちゃ楽しませていただきました！！ (2021年9月21日 17時) (レス) @page50 id: 8126ce0406 (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - ふわり｡さん» コメント・ここまでお付き合い下さり有難う御座います。こちらこそ、これからもお付き合い頂ければ嬉しく思います笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - 哀霞さん» コメント有難う御座います。そう言って頂けて幸いです…励みになります。次回作の方も宜しくお願い致します笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
ふわり｡ - 完結おめでとうございます！雰囲気も素敵でエピローグまで一気に読んじゃいました（笑）これからもファイトです！ (2019年8月21日 17時) (レス) id: 9c497f6a6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：繕 | 作成日時：2019年7月31日 11時
