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「あの……オルテンシア、さん…。」

「──額陽さん。どうかなさった?」

 つまらないホームルームが終わり、教室の生徒達は思い思いの放課に色めき立つ。部活に精を出す者も、友人と一緒に街へ行く者も、誰も彼も"今"という瞬間を謳歌する若き乙女達。
 教室の後ろ、あまり人目が届かない端の席。ライはそんな彼女達を、興味無さげにぼんやりと眺める。毎日の繰り返しで飽きはしないのだろうかと、まるで他人事のように思う──実際にも他人事なのだが。

 帰る素振りを見せずに自分の席に座り続け、無駄に時間を消費している。そんなライに声を掛ける、なんとも勇気のある生徒が居た。
 淡い藤色の髪を両サイドでみつ編みにした、クランベリーのように艷やかなルベライト色の目の女生徒。彼女の何が凄いって、その色で地毛である事や、虹彩も元々であるという事…だろうか。

「たいした事じゃ、ないのだけど。あの…今日、も、一緒に帰れるのかなと…聞きたくて。」

 あとは──どうやら彼女は魔術への耐性が皆無に等しい事。
 しかしそれが裏目に出てしまった。

「えぇ勿論、一緒に帰りましょう。額陽さんのお話、とても面白いから…今日も沢山お話しましょうね。」

「ほ、本当…?! そう、なら凄く嬉しい! あの、いっぱい話を用意してきたから…うん、そしたら早く帰ろう!」

 承諾の言葉を伝えると、途端に目をキラキラと輝かせて喜ぶ──額陽紫花。
 今年度に卒業するというのに、ついぞ乙女達の花園に馴染めなかった彼女。友人は居らず、華やかな楽園の中で疎外感を味わっただろう彼女。

 だからなのか。

 この高校に居座れるよう、ライは学園全体に簡単な魔術をかけた。魔術は完璧に作用したようで、しかし一人だけに可笑しく作用したらしい。その結界が目の前の彼女、紫花だった。
 ライが登校し始めた初日から紫花は親友のように、何度もライへ話しかけてきた。使用した魔術は『ライ・オルテンシアは横濱聖セシリア学院の生徒である』という暗示に似たものであり、チャームのような効果を付けた覚えはない。
 異様なフレンドリーさに不審になって周りに聞けば、彼女の性格は引っ込み思案で内気だという。皆、友達が居なかった紫花に友達(ライ)ができて嬉しそうだった。

 そこで仮説。紫花の精神的負担か何かが、自身が使用した魔術と作用し合って異常になってしまったのだろう。と、ライは推測する。
 しかし確証は無いので、とりあえず放置を決めこんだ。

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作者名:紫陽花 | 作成日時:2020年3月24日 0時

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