鬼と呼ぶには優しすぎる【土方十四郎】

強引 ページ29

土方さんの左後ろを歩けば彼は右側に紫煙を吐いている。
朝イチからその姿を見れるのはなんとも嬉しい。

そんなことを考えていると土方さんはぶっきらぼうな声を出した。




土「それ俺が買ったって黙っとけよ」


「何でですか？」


土「何でもだ」


「納得出来ないんで嫌です。拒否権使います。言いふらしたいです」


土「拒否権を拒否する。副長命令だ」


「私は隊士じゃないので副長命令は聞きません」


土「じゃあ恩人命令だ。言いふらすなよ」


「ゔっ…それ言われたら断れないじゃないですか…」




ふっと得意気に笑った土方さんが憎い。

ムスッとした顔をしてみるも、前を歩いてる土方さんには気づいてもらえない。憎い。

歩いているととにかく声をかけられる。




隊a「あれ、Aちゃん着物変わってる？！」


隊b「着物新しいやつ？」




みんな気づいてくれて嬉しい。

土方さんの顔を覗き込めばなんとも気まづそうな顔をしていて、
黙っとけよ。と言われた理由が何となくわかった気がする。

自分の善を表に出すのが苦手な不器用な人なのか。



「そう言って頂けてとっても幸せです。どうですか？」



わざとらしく首を傾げて聞けばおじさん達の鼻の下が今日もよく伸びる。




隊a「超可愛い！」


隊b「超似合ってる！」


「えへへ。ありがとうございます」


隊a「そんないい着物どうしたの？」


「買って下さった方がいるんです」


隊b「そりゃまた随分太っ腹な奴だな！」


「私もそう思います。とっても優しい…」


土「おい。もう行くぞ」


「わっ」




首根っこ引っ張られて強制的に会話が終了してしまう。

土方さんのことべた褒めしようと思ってたのに。




「なんで遮っちゃうんですか。土方さんとは言ってないじゃないですか」


土「うっせェ。余計なこと言ったら着物没収すっぞ」


「やっぱり強引ですね」


土「かもな」




小さく笑った土方さんはようやく首根っこから手を離してくれた。

昨日と同じようの食堂で朝食を取り、また仕事に取り掛かるのだった。

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