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今年の夏休みもあっという間に過ぎていった。
「決まりなんだから仕方ないだろ。ちゃちゃっと賞状受け取ってちゃちゃっと壇上から降りりゃいいんだ、毎回そうしてるだろ」
「そのちゃちゃっとが嫌なんですってば」
9月1日。始業式の日。
朝から私は椅子に座る担任の米山先生と向かい合っていた。
「わざわざ職員室に直談判しにくる度胸はあるくせに、始業式で表彰される度胸はないとは笑えるな」
「あんまり目立ちたくないだけですって……」
ムッとする私とは対象的に、米山先生は呆れてため息をついた。
「みんなの前で表彰されるなんてそうそうない機会をここまで嫌がる奴初めて見たよ。緊張する奴は多いが……ま、お前は緊張なんかしねえか」
「塩崎さん、大きい大会だって出てるもんねー」
米山先生の隣の席に座る、英語の三好先生が微笑みながら会話に混ざってきた。
「そりゃ大会でも表彰でも緊張なんてしないですけど……こっちの表彰は全然、嬉しくないから」
私は頬の内側を噛んだ。
「俺みたいな下っ端に言われてもどうしようもねえけど……」
「やっぱ校長か教頭じゃないとですよね」
「お前なあ」
三好先生がクスッと笑った。それを見た米山先生は頭の後ろをポリポリとかいて、机に置いてあった出席簿でポンと私の頭を叩いた。
「塩崎が嫌がる気持ちはなんとなくわかるよ。けど、塩崎は悪くないから」
私の答えを聞く前に、米山先生は「ほら、教室戻れー」と私職員室から追い出した。
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ちょうど2年前。1年生の頃の話だ。
私が今まさにしているのと同じように壇上の上から賞状を掲げているとき、1個上の先輩が突然泣き出した。
その先輩も水泳をやっていて、ブレが専門で、私と同じ大会に出ていたのだと、当時も私の担任だった米山先生に教えてもらった。
名前も顔も知らないその先輩は、全国大会には行けなかった。
「夏休み中に行われた東京都中学校選手権、全国中学校水泳競技大会並びにJOCジュニアオリンピック、全てにおいて優勝という素晴らしい快挙を成し遂げ____」
私の後ろで校長が長々と言う。
早く終われ、早く終われと思いながら、私はできる限り賞状の影に顔を隠した。
先輩に同情したわけではない。米山先生の言うように、私は何も悪くないから。私が1番速かっただけ。
ただここに立つと、どうしても私に負けた誰かが今これを見ている可能性が頭をよぎる。
賞賛されたいから勝っているわけではないのに、自分のために泳いでいるのに、それを責められている気がするのは被害妄想だろうか？
余計なことを私の頭に植えつけていったあの先輩が、ただただ憎い。
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作者名：ねむねむねむね | 作成日時：2024年2月26日 23時
