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好きではない中学の制服を着て、いつもよりお弁当1個分重いエナメルバックを前かごに入れた自転車を立ち漕ぎした。

いつもは朝のニュースを見ながらダラダラしながら準備するところを、今日に限って朝のニュースを見ながらテキパキと準備をした。

梟谷高校に寄り道しても朝練には余裕で間に合うであろう7時45分に家を出た。念には念を、だ。

梟谷高校までだいたい15分。梟谷高校から水泳クラブまで恐らく10分。朝練が始まるのは9時。

完璧だ。





誤算だった。

梟谷高校がここまで広いとは想定外だった。しかも広いだけでなく、体育館がいくつもある。1つしかない体育館を取り合い部長同士で喧嘩が勃発する中学とは大違いだ。

さすがスポーツ強豪校。

裏門の近くの適当なところに止めた自転車も、早くしなければ気づかれて回収されてしまうかもしれない。

駆け足で渡り廊下を駆けていると、シューズと床が擦れたときの高くて不規則な音が私の耳に届いた。

間違いない、あの他のよりも一周り大きい体育館に、お兄ちゃんがいる。

全開にされている扉には、ボールが飛び出さないようネットがかけられていた。

私は慎重に、こっそり、ネットの網目の隙間から中を覗いた。

目を凝らすと予想通りいた。奥で足を広げストレッチをするお兄ちゃんが。

ただでさえ迷子になりかけて時間を食っているのに、あんなところにいるなんて!

知らない近くの人に声をかけるなんて勇気は私にはないし、こっそり体育館にお弁当を置いて逃げてしまおうかと思ったが、それではお弁当が誰かに蹴り飛ばされてしまうかもしれない。


「誰かに用事〜?」


私の視界に、Tシャツにプリントされた『梟谷』の文字が映った。

思わず肩をビクリと震わせ、1歩後ずさった。

私に声をかけたのは、女の人。多分、梟谷のマネージャー。


「すごい顔して中覗いてるからさー、私が代表して話しかけてこいって」

「ご、ごめんなさい。お兄ちゃん……塩崎、塩崎仁を、呼んでほしくて」

「塩崎センパイの妹ちゃん?確かに似てるねー、入って入って」


「いいんですか?」と私が尋ねると、「だって遠いし、呼ぶの面倒だから」とマネージャーさんが答えた。

私は靴を脱いで、体育館の端っこを早歩きしてお兄ちゃんの元へ向かった。

周りからの視線が痛い。

はやく逃げ出してしまいたい、でもこのお弁当を放置するわけにはいかないのだ。


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作者名:ねむねむねむね | 作成日時:2024年2月26日 23時

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