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家に帰ってすぐ、制服も脱がずに自転車に飛び乗り、梟谷高校の裏門に一直線に向かった。

空が少し灰色だ。肌寒い。

自転車を裏門の近くに停め、勘を頼りに屋内プールを目指した。

前にも通った、体育館の並ぶ外の道を歩いているときだった。


「お、"ショック療法ちゃん"じゃん」


その言葉の主は紛れもなく私に向けて言った。だってその人と目がバッチリ合ってしまっているのだから。

その人は入り口にかかるネット越しに手をひらひらと振った。足元にはミカサのボールが転がっている。


「塩崎先輩に用事?」


私は思わず息を止め、首を横に振った。


「……屋内プール、探してて」

「それならここ真っ直ぐ進んだらすぐだけど、そっか、ショック療法ちゃん水泳やってんだっけ?先輩が言ってた。見学かなんか?」


そのショック療法ちゃんって一体なんなんだ、と思いつつも、今はそれを聞いている場合ではない。


「はい、そうです。教えてくださってありがとうございます」

「バカ丁寧だな」


きっと今のは間違いだったのだろう。初めましての人との接し方が私にはいまいちよくわからないままだ。

ごめんなさいの気持ちを込めて軽く頭を下げて、その場からそそくさと離れた。





プールの塩素の匂いが、まだ鼻の奥に残っている。

クラブのよりはもちろん小さいが、波多野の言っていた通り確かに設備はしっかりしていた。

コーチの計らいにより隅っこで少しだけ部活の様子を見学させてもらった。

跳ねてきた水が私の頬を優しく撫でたような気がした。

高校生は、やっぱり速い。

プールサイドにいるのも好きだけど、早く泳ぎたくて堪らない。次に泳げるのは月曜日。

余韻に浸りながら来た道を戻った。


「ナイスタイミング、A」


体育館から「今休憩中ー」とお兄ちゃんが出てきた。


「木葉からお前が来てたって聞いた。今日面談じゃなかったか?」

「終わった。水泳部の監督が見学いいよって。私がお願いしたんだけどさ」

「あ!さっきの!プール行けた?」


入り口から"木葉"がひょこっと現れた。

私は「あっ、ありがとうございました」と呟いて、頷いた。

その途端、冷たい空気が背後から押し寄せてきて、「雨だ」と振り返ったときにはもう雨は激しくなっていた。

急だな。天気予報、見るの忘れてた。


「お前、傘持ってる?」

「ううん。自転車」

「予報じゃ結構強くなるみたいだし自転車危ないだろ。俺傘あるから、部活終わるまで待ってろよ」

「え、やだよ。ずっとここにいるのはさすがに」

「だから、こん中で待ってりゃいいじゃん。ちょっとくらいなら大丈夫だろ」


大丈夫じゃ、ない。


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作者名:ねむねむねむね | 作成日時:2024年2月26日 23時

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