転換の秋 ページ11
・
ありがたいことに、いくつかの高校から声がかかった。
その中には梟谷高校もあって、お母さんはすごく喜んでいた。
もっと強い高校からも誘いが来たが、そちらは断った。
「本当にこっちじゃなくて梟谷でいいのね?」とお母さんに何回も念を押された。私が「家からすぐだもん」と言うと、お母さんは「あんたがそれでいいならいいよ」と笑った。
推薦の話は着々と進んでいき、梟谷水泳部の監督、中学の校長と米山先生、お母さんと五者面談をすることになった。
「それでは来週の土曜日の午後2時に。楽しみにしています」
電話口から聞こえる声に「はい」と返事をして、向こうが電話を切ったのを確認してから受話器を置いた。
フーっと息をつきながら思い出したのは、波多野のことだった。
進路に関わることをペラペラと話す人がいるはずもなく、水泳クラブの同学年の人たちは高校をどうするつもりなのか、私にはさっぱりわからない。
波多野は推薦を貰えたのだろうか。
・
入学後は水泳部に必ず入ること、年内には合格が確定すること、面接や学科試験を行うが、余程のことがない限りそれが理由で不合格にはならないこと。
中学の校長室で、その他諸々細かい条件を水泳部の監督から説明された。
米山先生もお母さんに負けじと大喜びだった。
「いやーまさか塩崎さんがうちを選んでくれるとは思わなかったよ」
「いえ、とんでもないです」
昇降口に向かう廊下で、監督が優しい笑顔でそう言った。
「今度、ぜひうちの屋内プールに見学に。なんなら泳いでみてください、体験という形で」
プール。泳ぐ。なんて素晴らしい言葉の響きなんだろう。
「あの!それ、今日でもいいですか?」
「今日?さすがにそれは……」
「泳ぎはしないです!ちょっと覗くだけでいいです!ただ、早く見てみたくて。屋内プール!」
この面談のためにクラブを休んできたのだ。
今日はまだ、大好きなプールを見てすらいないんだから!
「こらA、迷惑がかかるからやめなさい」
「いえお母さん、それくらいなら大丈夫でしょう」
私の口の端に力が入るのが嫌でもわかった。
「私は用事があるので案内できないけど、今部活を見てるコーチに連絡をしておくから。それでいいかな?」
私は思いっきり頷いた。お母さんが隣で「すみません」と深くお辞儀をした。
「塩崎さんは本当に水泳が好きなんだね」
「……?好きじゃなかったらやってないです」
監督はにっこり笑って「そうか」と言った。
・
95人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ねむねむねむね | 作成日時:2024年2月26日 23時