夏が来る度に2 ページ27
昔は、セミの声が煩わしくて仕方が無かった。
でも窓の外を見て君が。
『セミは、元気に生きてるのね』
って笑うから、たまにはあの声に耳を傾けるのも悪く無い。
この病室は今日も冷蔵庫の中みたいに冷えている。
それなのに君は窓を開けて、風を感じている。
セミの音を聴いている。
『ね、幻太郎。昨日私は流れ星を見たのよ』
振り返って語り出した。
あの、星の旅人たちの話をして以降、彼女は星の話をする。
『でも一瞬だったから、願い事出来なかったの』
「なんて願うつもりだったんです?」
『……もう一度、"兄"に会いたい』
首の痣をさすって言い放つ。
兄。
どこで何をしているのかも分からない、彼女の兄。
「会って、何を言うんですか」
彼女は押し黙った。
だけどなんとなく、何を言うのか俺には分かった気がした。
もしも友人と会えなくなって。
もう一度会えたら……。
きっと俺は……。
* * *
「何、してるんですか」
427号室の中、目立つ桃色の髪が見えた。
病室には相変わらず患者はいない。
もう彼女の霊はいないのに、使われること無くそこにある。
「セミの音を聴いてたんだ」
ベッドに腰掛けた乱数が、振り返らずに言った。
その言葉に苛立ちを感じながら口を開く。
「セミ、好きなんですか」
「どうかな。でも昔は嫌いだった」
「……それは、なぜ」
「毎年セミは鳴いてるのに、あの子はずっと眠っていたから」
汗が首元を滴り落ちた。
心は冷めても、もうこの部屋は冷えていない。
Aは本当に消えてしまったから。
「お盆が来たら会えますよ」
「そーだね。会えたら面白いね」
「掛ける言葉、考えておいてくださいね」
出来るなら。
「ごめん以外で」
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黒羽ひみと(プロフ) - いじいじさん» 初めまして!神です!(嘘ですよ) 読んでいただきありがとうございます♪ (2020年10月5日 1時) (レス) id: 451dd01b35 (このIDを非表示/違反報告)
いじいじ - えぇ…神ぃ……? (2020年10月1日 12時) (レス) id: 071f62e8cb (このIDを非表示/違反報告)
そまそまりつりつ(プロフ) - 黒羽ひみとさん» まじですか?あの駄作を…神ですね。こちらこそこんな素敵な小説を読ませて戴いてありがとうございます (2019年7月23日 23時) (レス) id: 179de70c1e (このIDを非表示/違反報告)
黒羽ひみと(プロフ) - そまそまりつりつさん» コメントありがとうございます!そまそまりつりつさんの作品最近見たので、テンション上がりました!途中、寒気や突然現れたり消えたりの描写があるので、怖いかも?と思い、一応ホラーにしました。儚さもありますね。読んでくださりありがとうございました! (2019年7月23日 23時) (レス) id: 11b0ce94e5 (このIDを非表示/違反報告)
そまそまりつりつ(プロフ) - 解説を読む進める度に「はぁ…」と納得のため息を漏らし過ぎて親にうるさいと言われましたw俺個人の意見ですがホラーと言うより、儚い物語のようにも思えました。とても面白かったです。 (2019年6月28日 23時) (レス) id: 179de70c1e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒羽ひみと | 作成日時:2018年8月3日 12時