50.会いとうない ページ50
数分前。
「美味いのう……初めて料理をした時のことを思い出しゆう」
陸奥守吉行は、桜の形に切られた人参を箸で掴みながら呟いた。
俺の知らない話……ということは、"まだ前任がああなる前"の話か。
陸奥守はよく、俺たちを宥める時に言っていた。
――今はちと、
そう言う奴の方が、あの時は疲れているよう見えた。
「陸奥守、主のことだが……」
「えいよ」
「――」
「おまんらが納得できるなら、それでえい。わざわざわしを通す必要ないぜよ」
以前の奴からは想像できない、少し突き放すような声音。その原因が、俺にあることを知っている。
あの時、陸奥守は怪我を負った者を救うために、審神者の引継ぎを提案した。
それに対して俺は、更なる苦しみから皆を守るために、審神者を置くことに反対した。
その結果が……ここにある。
「……審神者の霊力、あれはわしも嫌いじゃないぜよ。けんど……会いとうない。すまんちや」
「いやいい。謝るのはむしろ俺の方だ。おぬしには……おぬしらには、酷な思いをさせた」
あの時、ふたりが必死に動かなければ、他の者の心が壊れていた。
それが、あやつの犠牲だけで済んだ。
それは、ふたりが皆を守り続けていたからこその結果だろう。
「……三日月。間違っても、審神者を殺さんように、殺させんようにな。わしは……」
俺は、一度だけ見たあやつの姿を思い出した。
「――もう二度と、化物になる仲間は見とうないぜよ」
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黒羽ひみと(プロフ) - 黒無さん» お褒めの言葉ありがとうございます!更新は今しばらくお待ちくださいませ! (2020年9月26日 14時) (レス) id: 451dd01b35 (このIDを非表示/違反報告)
黒羽ひみと(プロフ) - waterさん» ありがとうございます。更新止まってしまいすみません!時間ができ次第再開します。 (2020年9月26日 14時) (レス) id: 451dd01b35 (このIDを非表示/違反報告)
黒無(プロフ) - 素敵な作品ありがとうございます!更新待ってます!! (2020年9月24日 12時) (レス) id: 2b98e9a281 (このIDを非表示/違反報告)
water(プロフ) - 面白い。いい作品に会えて良かったです。更新待ってます。 (2020年9月24日 12時) (レス) id: e941bacba9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒羽ひみと | 作成日時:2020年8月23日 12時