537話 ページ37
この世界を、何も知らないちっちゃい子たち。
私が小さい頃、関西はコンサートなんて全然できなくて、お仕事は、東京の先輩たちが大阪でコンサートをする時だけ。
遠征ができない東京Jr.の、いわば穴埋めでしかなかった。
「みんなには、明後日になるかな？ここの大きなステージを、いーっぱい走ってもらいます！」
そう言えば、不安そうな顔をする子、キラキラと目を輝かせる子、少し物足りなさそうな表情を向ける子…反応は様々だった。
私が担当したのは、10人のオーディション生。
大好きな、同期の真鳥くんと一緒に、一回り近く離れたちびっ子たちにダンスを教えたり、自己紹介の練習をしたり。
真鳥「なんか懐かしいな。俺もまだちっちゃかったけど、お前めっちゃちっちゃくて…」
「いつの話してん」
真鳥「お前と、丈は思い入れが強いねん。俺が絶対に輝かす」
「それ、ずーっと言うてるな。ほんま頼むで？」
私が比較的年齢の低い子たちを、まと君が大きい子たちを見ていた。
お前の方が、ちっちゃい頃の不安な気持ちがよくわかるだろうからって。
「坂本Aって言います。君は？」
篤志「いとう…あつし…」
「ほんなら、あっちゃんやなぁ！」
思えばこれが、私と篤志の初めての出会い。
他の子たちに隠れて、なかなか話に入れず、キョロキョロと周りを見渡して何かを求める姿が、幼い頃の自分と重なって、放っておけなかった。
東京Jr.のみんなと違って、こっちにいると自然に関西弁になってしまう私を見て、少しだけ柔らかい笑顔を向けてくれた。
真鳥「丈が入った頃と同じくらいやな」
「丈くんの方がチビやったけどね」
真鳥「言ってやんな」
それから、オーディション生のみんなには、私たちのリハーサルを見学してもらった。
これまで何度だって踊ってきた曲が大半で、想いが溢れる。
関ジュを見渡して、改めて自分が…成長してしまったことを感じた。
気づけばあの時、優しく見守ってくれていたお兄ちゃん達はもういなくて、あとどれだけ…ここにいるメンバーと一緒にステージを踏めるんだろうかと、ほんの少しだけ寂しくなった。
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作者名：かん。
| 作成日時：2020年12月15日 20時
