536話 ページ36
【ジェシー】
本番を明日に控えたAは、リハの最中もすでにだいぶ緊張をしているのか、普段しないようなミスも繰り返してしまっていた。
それにしても、緊張だけでこんなミスを連発するようなAじゃないことはみんな分かってる。
振付師さんも、そんなことある？って感じで、ちょっと心配になったのか予定にない休憩を入れてくれた。
赤「どうしたの？珍しい」
「ははっ…緊張、しちゃって…」
赤「うーそ。なんかあった」
「ないって、ホンマに…緊張して」
赤「手…震えてるけど？」
ゆーっくり、ゆっくりと手を握ってあげれば、フーっと大きくひとつだけ息を吐き、俯くA。
手の震えは、摩っても、ギュッと握っても、変わることはない。
「オーディション、あるんよね…」
赤「そうみたいねぇ」
「そこにな、あの…その、重大な役割を…受けてしまって、その…」
赤「もーーーーーー、なぁんで言わないのよ〜！」
大阪入りをしてからも、ハードなリハや修正は繰り返されていて、もちろんそれはいつものことだし、Aだって分かっていること。
そんな中、昔から関西で振付をしていて、Aのこともよく理解してくれている振付師さんの提案。
もう十分振りも大丈夫だし、細かい修正は対応できると判断して、少しでもAが気兼ねなくリハを抜けて体を休められるようにって提案してくれたのが、“オーディション生へのレッスン”だった。
でも今のAにとっては、それはそれでプレッシャーだったらしくて、頭がテンパっちゃってたみたい。
いや、笑っちゃいけないんだけど、思わず笑ってしまった。
「笑わんといて！めっちゃプレッシャーやねんから」
赤「ごめんって、あー、笑った。いいのよ、体が休まればっていう、愛情なんだから。そんなに緊張しなーいの」
「もー。唐突な愛情表現がズレとんのよ、昔から…」
そんな風に毒を吐くAの手は、もうさっきみたいに震えてはいなかった。
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作者名：かん。
| 作成日時：2020年12月15日 20時
