525話 ページ25
【樹】
青「しんどいとこない？」
「うん…」
そういいながらも、顔色は悪くフラついているお嬢。
福澤先生からも、帰ったら酸素だけはつけて過ごしてって言われたし、状態は良くない。
帰りは高地が迎えに来てくれて、俺と北斗で挟むようにAを間に座らせる。
「しん…どい…」
黒「えぇ〜っ、なんで病院で言わないのよ…」
北斗のその言葉に、必死に涙を堪えるA。
ちょっと急いで家帰れる？って高地に声かければ、限界まで走らせるわ…って。
その間は、何も聞かない。
北斗も、Aの反応で察したのか、バツの悪そうな顔しながらも、Aを自分の方へ抱き寄せて、ごめんねって言いながら寝かせにかかる。
青「着いたよ、起きて」
「うん…っ」
青「いや、ゆっくり立てよ」
家に着けば、自分から“酸素”って言ってくるあたり、体はしんどいんだろうし、何もかも拒否っていうわけではない様子。
吐き気止めを入れてはいるものの、まだ嘔吐きそうなところを見ると、副作用だけではないような気も。
「来て…」
青「ちょっと待ってね…よし。行こっか」
相変わらず、俺と2人の時は素直に自分の気持ちを話をしてくれるA。
部屋へ行く前、北斗から“頼んだ”とでも言いたげな目線を向けられる。
一個ずつでいいよって言えば、ポツポツと、泣くでもなく淡々と話すA。
「…良くなっとらんかった。また…」
青「今回も変わらなかったか」
「頭痛くて…でも、言えんくて。耳も、時々…おかしいかなって」
青「うん」
「ステージにいても、気持ち悪くなったり…フラフラって、急に眩暈することもある」
青「ごめんな、なかなかカバー出来なくて…」
そうじゃないよって、Aは言うけど単純に、気づいていても、うまくカバーができない自分が悔しかった。
そして最後にAが呟くように、言葉を落とす。
“また、分からなくなっちゃった…なんのために頑張ってるんだろう”
ギューっと抱きしめても、泣かないAが、そこにいた。
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作者名：かん。
| 作成日時：2020年12月15日 20時
