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【優吾】
9月のコンサートは、思っていたよりあっという間にやってきた。
いや、やってきてしまった…の方が、俺にとっては近しい感情だったかもしれない。
黄「明日、母さんと来る？」
「んーん、1人で行くと思う。バイト終わってから行く」
黄「…気をつけてきなね？もしかしたら、終わってもあったりできないかもしれないんだけど」
「だーいじょうぶ。私だって大学生だよ？優ちゃんたちのこと見にくる、周りの女の子たちと一緒。1人で行って、1人で帰るくらいできるよ」
クスクス笑って、同い年なの忘れた？って楽しそうなAは、結局あの日から俺の芸能活動のことを何言うわけでもなければ、大我のことを話すでもなかった。
少しこれまでと変わったことといえば…なかなか俺の家に来る頻度が減ったこと。
なんでかは、大体二択で察していた。
黄「てかさ。男できたんだったら、コンサート…ちゃんと来ていいか…」
「え、なんのこと？」
黄「あ、外れた。いやさ、最近家来ること減ったし。また男できたかなって」
「…幼なじみだからなんでも分かってるよ感出さないで」
黄「分かってるよ“感”じゃなくて…分かってんだよ。大人しく病院行け」
「…行ってるもん」
黄「ん、そ。偉いじゃん」
なんの当たり障りもない話。
核心に踏み込むのが怖いのは、お互い様らしかった。
「ねぇねぇ」
黄「んー？」
「コンサートって、どんな格好で行ったらいいの？」
黄「えー？別に普段出かける格好でいいよ。暴れ回るわけじゃないし、合コンでもないんだから」
「なにそれ」
“優ちゃんに、夢託しちゃったんです…私”
いつかでいい、かな。
そう思いつつも…。
“なんか…もう、潮時かなーって思って”
あの言葉を、心の片隅で自分も捉え始めてる今…それが何かさえわかっちゃいないけど、いつの日か俺に託されていたらしいその“夢”を無言で背負える自信はなかった。
それでも、いつ最後になるか分からないステージに、自分に夢を託されているという事実だけでも知った今。
「優ちゃん、違う人みたいだった！すごかった！」
目を輝かせて、これまでの長い付き合いの中でも群を抜いて興奮してる幼馴染を前にすれば、もう少しだけ踏ん張ってみようって。
そんな俺の気持ちとは裏腹に…灯火は。
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作者名：かん。
| 作成日時：2022年11月4日 20時
