【187】HOKUTO ページ37
3学期最初の体育館は、久々に人の集まる温かさをまだ思い出していないのか、妙に冷たくて。
その冷たい体育館の一番後ろで、ちっちゃくまとまるかわいい彼女。
北「おはよ」
「ふふっ。さっきも会ったじゃん」
北「いーの、細かいことは。寒くない？」
「カイロあるし、あと慎がこれくれたから大丈夫！」
見て〜なんてポヤポヤしながら熱々の缶のココアをふりふりしては、アチッ！なんて、忙しいA。
そりゃ、振ったら熱いでしょうよ。
「ほく、戻らなくていいの？」
北「んー？まだ大丈夫じゃない？」
桐山「どこがやねん。もう始まるし、列戻り〜。ほんで、あなたはまだ しんどいんやから、そんなに はしゃがん」
北「え、なに、調子良くないの？」
桐山「熱はそこまで高くないし、別に何がってわけやないけど、なんとなーくしんどいやんな？…ちょっと、久々の学校やし、不安もあるんかなぁ」
言われてもわからないレベルの、些細な不調。
多分、それは俺だけじゃなく本人もそうで、調子良くないの？って聞いたそれに、ただ当の本人は不思議そうに首を傾げて、桐山先生が呆れ顔で言葉を返しているのが何よりの証拠。
だとするなら、多分桐山先生の憶測は申し訳ないけど間違ってんだと思う。
いい方向に。
北「安心した？いろいろ、落ち着いて」
桐山「えー？どういうことー？なんや、2人にしかわからんシンパシーでもあるん？」
北「気、抜けた？」
「ふふっ。んー、わからんけど…熱は出てるんだと思う。というか、さっき保健室で検温したらちょっと熱あった。でも、しんどくないよ」
北「ならいいけど。んじゃ、俺あっち戻るからね。なんかあったら、ちゃんと親方頼ってよ？」
桐山「誰が親方やねん」
ケラケラ笑うAを見れば、たぶん思ってる通り。
冬休みの間から、長らく新しい治療やら、樹のことやら、まぁちょっとお母さんたちのこともゴタついたりもしたみたいで、なんだかんだ緊張状態の続いていたAの心。
お母さんたちのことは結局どうなったのか、それを聞くことさえ、Aの心を追い詰めるようで俺にはできなかったけど、少なくとも治療や樹のことは落ち着いてきた。
少しずつ戻ってきた日常に、きっと安心したんだろう。
そのことに、俺もひどく安心をしていたんだ。
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作者名：かん。
| 作成日時：2022年4月18日 12時
