【文スト】森鴎外の秘書 弐

肆 ページ24

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「只今戻りました」



そう云って私は執務室に戻った。
薄暗い部屋、窓際だけ陽が差し込ンでいる

ふと窓の方を見た。

其処にはゆっくりと回る観覧車があった
……私は自分を偽ってなんかいない


観覧車に乗りたいと云う感情は認める
けれども最優先は鴎外さんの命令、そして
鴎外さんへの奉仕。

優先事項を整理すると
元から私の私欲を入れる隙間など無い


別に其れを苦と思ったことは一度も無い。
なにせ情緒的繋がりで
私は鴎外さんの側に居るのだから

だから、鴎外さんに
私の願いを聞いて欲しいだなんて思わない。
そう、鴎外さんにも私に情緒的繋がりを
持って欲しいだなんて……



「A、明日は密輸業社から
正式な取引の内容についての封書が来る。

今日迄に砂の砦についての諸々を
終わらせなさい」


「はい」



そう、此れが私の日常。
ポートマフィアに来て八年、
一度も変わらない私達の日常。


私は奥の部屋に戻ろうとする足を止めて
言い聞かせる様に云った




「鴎外さん」


「…ん？」


「私は、森鴎外の秘書です」


「……」


「失礼しました」




そう云い私は部屋に入り、扉を閉めた。

よし、もう終わりにしよう
先刻の言葉と一緒に総てのモヤモヤを置いて来た

私は森鴎外に仕える一秘書として
あの人の側にいよう。

そう心の中で唱え、私は机に向かった
隅に置いていた小球儀(スノーグローブ)の観覧車が
哀しく回った

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