時を超えて 57 ページ31
その中でわかったことは、自分はここの皇子であることだった。
戦争での戦闘で、記憶喪失になったらしい。
つまり、俺は人を殺したことがある…ってことだ。
話が終わると、俺はひとり、恵さんにつれられてある部屋へとやってきた。
「失礼します」
扉が開いたその先にいたのは、見るからに良い服を守った男だった。
「彩…」
その人も自分を見て、少し寂しそうに名前を呼ぶ。
その人の前に座らせられて、恵さんは部屋を出ていってしまった。
「俺の名は、愛菜。この国の、国王をやってる」
「！？」
まさかこんな若い人が国王だなんて思ってなくて、驚いてしまう。
「ホンマに彩なんやな」
「あっはい」
「そうか、ホンマに彩なんやな」
何で二回言ったんだろう、なんて思う。
「えぇっと…」
「ごめんな、突然連れ戻したりして」
「いや、仕方ないですよ…
俺、皇子だったみたいですし」
今まで起きたこと全てが、恵さんの話で繋がった。
記憶喪失の皇子だからと言って放って置いて、悪い奴らに捕まっては面倒なことになるのは目に見えている。
すると突然、奥の扉が開いたと思えば、綺麗な女の人が立っていた
「あら、愛菜、お客さん来てたの？」
「あぁ」
「なら、後にす…」
自分と目が合った瞬間、彼女の言葉は止まって驚いて目に涙を浮かべた。
(俺って、みんなに死んだとでも思われてたんかな？
まぁ、1年も行方不明やったらあんな顔されるか)
なんだか泣きそうなその女の人の表情に彩は勝手な解釈をする。
「…彩？」
「そうですけど…
あの…俺、記憶無くて」
「うん、知ってる」
「忘れててすみません」
「うぅん」
その人はなんだか寂しそうに首を振る。
「愛菜さん、誰ですかね？」
小声で聞いてみる。
「俺の妻の、菜々」
「えっ奥さん！」
「うん」
彩はもう1度彼女の方を見てこう言った。
「とても、綺麗な方ですね」
そしてその言葉は、菜々の涙を煽るのには十分だった。
「私、部屋戻るね」
そう言ってそそくさと部屋を出ていってしまう菜々を、愛菜は静かに見つめていた。
扉を閉めた菜々は、そのまま扉にもたれ掛かって涙を流す。
どうしてこんなにも涙が出てくるのかわからない。
今がどういう感情なのかわからない。
でも、ただ一つ確実に思ってることは、『彼が生きててよかった」ということだった。
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作者名：ハル | 作成日時：2017年1月2日 19時
