歪みと距離 16 完 ページ16
「それに、私は病気だしさ、決して未来は約束されてないから」
「いい…彩がいい」
彩はケラケラ笑って、どこでそんな言い方覚えたんだよ、と頭をクシャクシャに撫でてきた。
「前は、そんなこと言う人じゃなかったのにな。
あんな無表情だったのに」
寂しそうな顔を一瞬見せた彩に、どこからともなく罪悪感が溢れる。
愛のないキス、愛のない行為は、どれだけ彩を傷つけてきたんだろう。
「美優紀の、好意には応えられない」
彩は微笑んで、そして私にそう告げた。
「…私は」
言葉が詰まる。
あんな事をしといて、こんなわがままを告げる私は本当に最低な人間だ。
だけど…だけど…
「彩の傍にいたい」
涙ながらに絞り出した声は、彩の耳に届いていたらいいと願った。
「だから、私は」
「未来の事なんて知らない。
私はただ、この今の時間を彩の隣で過ごしていたい」
想いを言葉にするのはこれが初めてのことだ。
「私はきっと美優紀を苦しめる」
「いいよ、楽しいばかりじゃなくても。
彩とならそれでいい」
今まで彩を苦しめたのは私でしょ？
だったらいいじゃない。その分私を苦しめても。
「彩、私と付き合ってください」
初めて、彩の泣き顔を見た。
けれど、ただただそれが美しいと思った。
「付き合ってくれって、私振った覚えも振られた覚えもないよ」
彩はそう言って笑った。
「お別れは言えなかった。
私ってずるいよな」
私はずっと彩のものだった。
離れている間も、もうダメなんだって諦めていた時も、彩の心には私がいれた。
本当にずるいね。
そんなの言われたら今までの事だって許せちゃうよ。
愛あるキスをしたのは初めてだ。
なんだかそれは、甘酸っぱくて、そうまさにこれが初恋の味なんだって思えた。
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作者名：ハル | 作成日時：2017年1月2日 19時
