165:今日まで ページ16
.
取りあえず左側に足を踏み出したら、その物陰に誰かがいて驚く。
『わ!あ…、ソクジンくん』
「どこ行くの」
『どこって、ソクジンくんが帰るって連絡してきたから、追いかけて…』
「そっか。
…じゃあ帰ろう」
『っうん、』
そのまま私の手を取ると、駅の方へ歩き出す。あまりに普通に。
…待っててくれたんだ。
ホソク先輩について行っちゃったのに、メッセージが来てからすぐに向かえなかったのに。
駅に着いて、電車に乗って、そして家に着くまで会話は無かった。
家の前で振り返る。
「A、今日までありがとう」
『うん…ありがとう』
「じゃあ、夜更かししないで寝るんだよ」
『っソクジンくん』
すぐに帰ってしまいそうな彼を、どうにかして引き止めたかった。
謝るのは違うけど、だけど何も言わずに今日の日を別れることはもっと違う気がするの。
退路を塞ぐような位置に立ったまま、そのまま。
バッグの紐を握ったり解いたり上手く話せないでいた。
「笑顔でいてよ」
何の脈絡も無いような言葉に、下がっていた視線を上げる。
『……え』
「笑顔で別れて」
『笑顔なんて』
「ただ、ずっと笑ってて欲しいだけなんだよ」
そう言うと、穏やかに微笑んだ。
「別に彼氏じゃなくたって、Aを笑顔にする事はできるしね」
少し屈んで、私の頬をふにんと持ち上げる。
だからそれに合わせて、自分の口角も精一杯上げる。
『…ありがとう』
私の事を考えてくれて、笑顔を願ってくれて。
気持ちに答えられない私なのに、そんな素敵な心をくれて。
『本当にありがとう、ソクジンくん…っ』
とてもとても、大切な人。
すぐに謝ってしまいそうな口も、簡単に溢れそうな涙も押し留めた。
「どういたしまして」
その手に触れられていたのはほんの数秒の事だったのに、頬を撫でる風が冷たく感じる。
後ろから聞こえる足音が聞こえなくなるまで耳を澄ませて、途切れた瞬間玄関前にしゃがみ込んだ。
どれくらいそうしていたのか玄関のドアが開き、ゴミ袋を持ったお母さんの怪訝な顔。
「何してるの」
また何か言われる。だって今日は午後から全く勉強していない。
いつでも飛んでくるそのナイフだけど、今だけは邪魔されたくない。
この余韻を失うと気持ちが混乱しそうで、無言のままお母さんを避けて、部屋まで駆け込んだ。
.
続く お気に入り登録で更新チェックしよう!
←164:そういう人間
187人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あさなさな(プロフ) - りつうさん» どっちも最高学年で生徒会の上の立場なので、嫉妬のような感情や一面は理性で隠してたんだと思います。ナムジュンさんの想いも、明かしていけたら…! (4月8日 13時) (レス) id: 4d4d65fc30 (このIDを非表示/違反報告)
りつう(プロフ) - 嫉妬によりMくんとナムさんの見えてなかった一面が顔を出しましたね〜!ナムさんもホソク先輩のことで葛藤したり懊悩してたのかな〜と想像してしまいました😢 (4月7日 16時) (レス) @page13 id: 2c4192e77a (このIDを非表示/違反報告)
あさなさな(プロフ) - Suzyさん» ありがとうございます…♡ (4月7日 10時) (レス) id: 4d4d65fc30 (このIDを非表示/違反報告)
Suzy(プロフ) - あさなさなさんの···繊細な表現がすきです💙❤💙 (4月5日 23時) (レス) id: 8ccc3081cc (このIDを非表示/違反報告)
あさなさな(プロフ) - りつうさん» 主人公の相談に乗ってくれる人がなかなか居なかったので、ようやくのヨンジュン先輩でした!それぞれのキャラクターの心情まで深く読んでいただけて嬉しいです!素敵なお言葉もありがとうございます! (3月18日 12時) (レス) id: 4d4d65fc30 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あさなさな | 作成日時:2024年3月15日 18時