6 ページ32
「───来年は初めから昼で店閉めるようにするか」
『え？』
ふと隣で呟かれた言葉に、私は視線だけを店長へ向ける。
すると、彼は片足をベンチに乗り上げて、上体ごと私の方を向いた。
綺麗な二重幅の目が真っ直ぐと私を捉え、仕事の時とはまた違う柔和な笑みが浮かべられる。
「そしたらAも、1回家戻って、浴衣着てこれるやろ？」
『･･････』
名案とばかりに嬉しそうにした店長とは裏腹に、私は表情を硬くしながら数回瞬きを繰り返した。
そして、店を早く閉める事と、私が浴衣を着てくる事の因果関係をしばし考察する。
己に都合好く解釈するのは嫌だが、何度考え直しても、「来年は浴衣を着て一緒に祭りに来よう」という答えしか導き出せない。
『それ、は･･･』
しかし、本当にそう解釈して喜んでも良いのだろうか？ぬか喜びだったら？
どうリアクションを返したら良いのか分からず、私は困惑した反応を彼に見せてしまった。
すると、私のパッとしない表情を見て、途端に店長の眉間にシワが寄る。
「なんや、浴衣着たいんとちゃうかったん？それともアレか、俺と行くんが嫌なんか？」
『嫌じゃ･･･！嫌じゃ───』
嫌な訳ない。
『───ない、です･･･！』
期待して、いいんだよね？
ちゃんと、店長も私を見てくれていると。
"昔付き合ってた彼女さんの夢が花屋やったらしいねんけど───"
ふと脳内で繰り返された、いつかの大倉君の言葉。
"───だから俺が代わりに叶えるんだみたいな事言うとったな"
『───店長』
「ん？」
『私･･････』
私の事、どう思ってますか？
『もう、大丈夫です。だいぶ良くなりました』
聞けない。そんな事。
「おー、そうか。ほんなら、ぼちぼち行くか？でも、あんま無理したらアカンで？」
『はい』
それに今はまだ、この優しい笑顔に甘えておきたい。
この幸せな瞬間に、浸っていたい───。
ムラサキツユクサ･･･ひとときの幸せ
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 99人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
めめこ(プロフ) - ゆきさん» 励みになるコメントありがとうございます！✨ 更新頑張りますので、これからもお話を楽しんでください😊 (4月9日 18時) (
レス) id: ca01f690f5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - めめこさんの書くお話が、占ツクに投稿されているお話の中で一番好きです。更新楽しみに待っています。 (4月4日 19時) (レス) @page42 id: 159543e1b4 (このIDを非表示/違反報告)
めめこ(プロフ) - アッキーナさん» 読んで頂きありがとうございます！嬉しいお言葉です✨ (2月8日 7時) (レス) id: ca01f690f5 (このIDを非表示/違反報告)
アッキーナ(プロフ) - 素敵なお話すぎて一気に読んでしまいました！この先の展開楽しみにしてます。 (1月31日 16時) (レス) id: ee5b45e1af (このIDを非表示/違反報告)
めめこ(プロフ) - 海嵐さん» ありがとうございます！今後の展開も楽しみに読んで頂けたら嬉しいです！ (1月6日 18時) (レス) id: ca01f690f5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：めめこ | 作成日時：2023年12月29日 19時
