2 ページ21
＊＊＊
『ありゃ〜･･･』
グレーの空からシャワーのように降っている雨を眺めながら、私はそんな間抜けな声を漏らしていた。
それは無事にアレンジメントを届け終え、焼肉店を後にした矢先の事であった。
雨宿りをしようにもいつ止むのかも分からないし、店へ帰るまでの距離でわざわざ傘を買うのも憚られる。
『頑張るか･･･』
私は重たい溜息をついて、店まで走って帰る事にした。
店の裏口へ到着した時には、全身ずぶ濡れで息も絶え絶えになっていた。
もはや、こんなに頑張って走る必要はあったんだろうか･･･。
どうせ濡れるなら、いっその事ちんたらと歩いて帰ってくれば良かった。
そんな愚痴を内心でこぼしながら、私は裏口の扉を開けた。
『───戻りました』
「おー、おかえり･･･って、どないしてん！？ずぶ濡れやんか！雨降ってきてもうたんか！？」
『はい･･･』
中へ入った途端、店長の大きな声に圧倒された。
ちょうどバックヤードのテーブルで帳簿を付けていたようだ。
しかし、こちらの姿を見た途端に慌てて立ち上がると、すぐにタオルを持ってきてくれた。
そしてそのタオルを頭からすっぽりと被せると、そのまま犬でも扱うようにワシャワシャと髪を拭かれる。
「連絡くれたら迎え行ったぞ？風邪でも引いたらどないすんねん」
『いやいや、面倒はかけられないですし。あ、お花は大丈夫でしたよ？配達の後に雨が降ってきたので。あ、それに誰にも声掛けられたりしなかったです』
て、こんなびしょ濡れの女に声を掛ける輩がいる訳もないか。
そう苦笑を漏らした時だった。
視界を遮っていたタオルが無くなったかと思えば、見上げた先にはやけに真面目な表情の店長が、こちらを見下ろしていた。
「面倒ちゃうし。お前がこんなずぶ濡れんなるくらいなら、商品一つダメにした方がマシや」
『店長･･･？』
「それに、俺なら声掛けるけどな」
『えっと───』
なんて、返したらいいんだろう･･･。
「エプロンもビショビショやな。一旦脱げるか？これ」
だが、言葉を考えあぐねているうちに、もうそのタイミングを逃してしまっていた。
店長の指が首の後ろをなぞりエプロンの紐を捕らえると、そのまま首から外されていく。
同時に腰の後ろで結んでいた紐も解かれ、スルリとそれは奪われていった。
それが何だか、妙にいけない事のように感じてしまい、咄嗟に俯いて火照る頬を隠す。
バカだな。何を考えてるんだろ･･･。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 99人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
めめこ(プロフ) - ゆきさん» 励みになるコメントありがとうございます！✨ 更新頑張りますので、これからもお話を楽しんでください😊 (4月9日 18時) (
レス) id: ca01f690f5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - めめこさんの書くお話が、占ツクに投稿されているお話の中で一番好きです。更新楽しみに待っています。 (4月4日 19時) (レス) @page42 id: 159543e1b4 (このIDを非表示/違反報告)
めめこ(プロフ) - アッキーナさん» 読んで頂きありがとうございます！嬉しいお言葉です✨ (2月8日 7時) (レス) id: ca01f690f5 (このIDを非表示/違反報告)
アッキーナ(プロフ) - 素敵なお話すぎて一気に読んでしまいました！この先の展開楽しみにしてます。 (1月31日 16時) (レス) id: ee5b45e1af (このIDを非表示/違反報告)
めめこ(プロフ) - 海嵐さん» ありがとうございます！今後の展開も楽しみに読んで頂けたら嬉しいです！ (1月6日 18時) (レス) id: ca01f690f5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：めめこ | 作成日時：2023年12月29日 19時
