□3 ページ3
あまりに苦い記憶に、私の空腹の胃がキリキリと痛み出すのを感じた。
そして、そのいたたまれなさからポケットマネーで自己回収した訳だが、どうしてもこの値引きシールだけはすぐにでも剥がしたくて、道端で大荷物を引きずりながらシール剥がしにいそしんでいた。
車通りの少ない道だったから、油断していたのだと思う。
前なんて全然見ていなくて、こちらに人が歩いて来る足音すらも、私の耳には届いていなかった。
『───剥がせたぁ･･･！』
ドンッ･･･───
『あ、すみませ･･････』
正面から男性とぶつかり、手元のリップまでも地面に落としてしまう。
私は咄嗟に頭を下げたが、一方の男性は無言のままこちらを一瞥し、そのまま行ってしまった。
確かに前を見ていなかった私の不注意だが、会釈の一つくらい返してくれてもいいのに。
目深に被ったキャップとマスクで顔もほとんど見えなかった事もあり、なんだかとても悪い印象を受ける。
『感じ悪い人だな･･･』
そう愚痴をこぼしながら、私は落ちたリップを拾った。
そして、今しがた剥がした値引きシールが見当たらない事に気が付く。
『あれ？どこいった？』
自分の洋服に付いてしまったのかと、袖の裏や肩の方まで確認してみるが、それらしい物は付いていなかった。
そしてふと、先程ぶつかってしまった男性の背中に目を向け、硬直する。
小さくても目立つ、あの赤と青の丸い物は、まさしく値引きシールではないか。
先程ぶつかってしまった時、あの人の背中に貼り付いてしまったのだろう。
あれではまるで、あの男性が70％引きにされているみたいで、あまりに気の毒な状態である。
私は慌ててその背中を追いかけた。
こっそりと背後からあのシールを取って、後は全力疾走で逃げよう･･･！
値引きシールを誤って貼り付けてしまいました。なんて、とてもではないが言えない。
ましてや、先程の態度だ。
ほっこりとする展開など微塵も望めやしない。
私は足音をひそめて近づくと、その背中に手を伸ばした。
しかし、案外これが難しいもので、あと少しの所で中々シールに手が届かないのである。
あの捲れた部分さえ掴めれば、あとは私が足を止めるだけでも容易く取れるはずなのに。
もうちょっと、あと少し、を繰り返しながら、私はその男性の後ろをずっとついてまわっていた。
そして、腕をつりそうになりながら指の先までピンと伸ばした所で、やっとシールを掴む事ができた。
やった･･･！
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 181人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
めめこ(プロフ) - 匿名さん» 癒やしだなんて･･･！こちらこそ、ありがとうございます！ (2022年4月3日 8時) (
レス) id: ca01f690f5 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 夜な夜な作品読ませていただいています、日々の癒やしです、ありがとうございます！ (2022年3月30日 2時) (レス) @page45 id: d8f1726f33 (このIDを非表示/違反報告)
めめこ(プロフ) - みーこさん» まさにうちキュンに影響された作品です(笑)引き続き応援よろしくお願いします！ (2022年2月21日 22時) (レス) id: ca01f690f5 (このIDを非表示/違反報告)
みーこ(プロフ) - うちキュンですね♡何か本当に頭の中にこのストーリーの映像が浮かびます(^^)応援しております！ (2022年2月20日 23時) (レス) @page24 id: bdc8ba7bac (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：めめこ | 作成日時：2022年2月11日 20時
