誰の子だって愛しい子 (ページ10)

今日:16 hit、昨日:30 hit、合計:34,991 hit

Part8 ページ10

……8ヶ月後

『ゔぅぅぅぅ～…涙』

このぼろアパートの中に私の苦しむ声だけが響く。
12時間くらい前、急に足元に水溜まりができて、陣痛が始まった。

魔法を部屋に張り巡らせて防音にしたけど
声を出しても痛みが収まるわけ無くて、
誰にも頼れない寂しさが埋まる訳でも無い。

『い"っだぁ～い…涙』

枕を握って、孤独と痛みに耐える。
次の瞬間、今までと比べ物にならない痛みが来て、下半身に違和感を覚えた。
赤ちゃんが出てきている。

『は…ぁ"…ん"んッ……ゔぅｯ…！』

私は必死に息んだ。
そして、頭がずるりと出る時には
ひたすら叫んでいた

『ゔぅｯ…あ"ぁぁぁぁぁぁぁあ！！！』

そして、何か出る感覚を最後に痛みが落ち着いた。

「んぎゃぁぁぁぁぁあ！！涙
おぎゃぁぁぁぁぁぁぁあ！！涙」

『はぁ、はぁ、赤ちゃん…』

疲労困憊の体を持ち上げて赤ちゃんをタオルでくるんで
抱きしめた。

『元気で良かったぁ…涙』

私が抱きしめると赤ちゃんは泣き止んでぐっすり眠った。
私は意識をギリギリ繋ぎ止めて
赤ちゃんの汚れを取ったり、ちゃんとケアをして
赤ちゃんと一緒に眠りについた。

『ユキ～！こっち向いて？』

「あぅ？」ｶｼｬｯ

『わぁーー！可愛く撮れた！』

生まれた赤ちゃんは男の子でユキと名付けた。
ユキは白い肌、青みがかった白髪、
丸み帯びた瞳を私から継いでいた。
そして、耳としっぽが有り、ちゃんと犬の子供で
彼に似た琥珀色の瞳だった。

「うぅー！！」

『ん～？ユキどうしたの…って！！』

『凄いっ！立ててるじゃんっ！！』

ユキは言葉が分かるようで褒めるとにへらぁと笑う。
これが可愛くてしょうがない。
傍から見たら私はとても親バカなのかもしれない。
でも、可愛いんだからしょうがないじゃん！

最近はユキが喜ぶため抱っこして散歩に行ったりする。
ユキは花が好きらしく、氷で出来た薔薇を見て喜んでいた。
年中雪が降っている雪原の街には本物の花が咲かない。
何時か茨の谷の花を見せてみたいな～なんて、
そんな叶うはずのない夢を見ている。