その男、問題児なり (ページ7)

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空も漆黒の絨毯を引いたような色になってきた。選手たちはそれぞれ自由行動となっており、夜食を食べる者もいれば交流を深める者、既に風呂に入る者もいた。そんな中如月は、誰とも関わる事なく一人で投球練習をしていた。

誰もいない空間にボールがネットにぶつかる音が響く。人が見ている時には見せなかった真剣な顔。何球投げたか分からないほどボールが床に転がっていた。

大谷「いつまで練習してるの？」

「！」

誰もいなかった空間に声が響く。如月は横目にそれを見るだけで声に出す事はなかった。無言で投球練習を続ける如月を大谷は観察する。

大谷「A、WBCはどっちでやるつもりなの？」

「…………」

大谷「当然二刀流でやるんだよね？」

「………知ってるならわざわざ聞く必要はないんじゃないですか？」

大谷「お、答えてくれた」

「……でも残念ながらそんなに出番は無いと思いますよぉ」

大谷「え、何で」

「何でってそりゃあ大谷サンみたいな優秀な選手がたくさんいるからですよ。俺じゃなくても事足りるんです」

大谷「＿＿なら何でAはここに呼ばれたの」

どこか怒りを含んだ言い方に動きを止める。如月はなぜ大谷がそんな顔をしているの理解できず、見つめ返すとボールを拾いに踵を返した。

大谷「意味があるからここにいるんだろ」

「そーですかね」

大谷「そうに決まってる。栗山監督に俺から言っとくよ、Aは素晴らしい選手だからって力説すれば＿＿」

「結構です。貴方は俺の何を知ってるんですか？まともに関わった事ない癖に知ったような口ぶりしないでくださいよ」

大谷「……」

「って言いたいところなんですけどねぇ。俺から頼んだんです、監督に」

大谷「……いやもう口に出してるし。どういう事？頼んだって」

「出すなら代打とか中継ぎくらいにしてほしいって」

大谷「何のために」

「そりゃあWBC優勝するためですよ。俺はあくまでも切り札(・・・)なんで、負けそうになった時にしか出ませんよ」

意味が分からない。顔を顰める大谷の事なんて知らずに如月はボールを籠にしまい始める。

そう言えば栗山監督にその事を伝えた時、酷く難しい顔をしていた。返事も聞かずに帰ってしまったが恐らく大丈夫だろう。ぼんやりとそんな事を考えながら、如月は鼻歌を歌い始めた。