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「ちょっと秋紀ー？そんなに騒いでどうしたの」
「…お、かあさん…」
「なに？Aくんは？」
A…？
Aは…
「あ、あいつ…ちょっと用事あるって、俺迎えに行ってくる」
「え、ちょっと！…ご飯は…？」
お母さんの言葉も聞かずに
入ってきたばかりの家を飛び出す
俺の部屋には俺以外の人なんて
誰もいなくて
窓は開けっ放しで机に置いてあった
新人戦のトーナメント表も床に落ちてた
窓から出てったのか？ここ2階だぞ
わざわざ買ってきた饅頭と竜田揚げは
この事の詫びってか
ふざけんな
「くそっ…今日は一緒にいる、そういう話だっただろうが」
生暖かくなってきたとはいえ
春を終えたばかりの梅雨時だ
夜は冷えるし風も冷たい
薄着のまま飛び出した俺は
体に当たる冷気を耐えながら
ひたすら走った
息が切れても構わず走り続けた
あいつが前に自分で言ってた
いい釣り場は駅の近場の
少し薄暗い細道だって
そこに立ってちょっと誘えば
飢えた男が勝手に寄ってくる
いつもそこで人を捕まえるんだって
「どこだ、A…っ」
駅の周りには沢山、あいつ好みの道がある
それら一つ一つに足を運んだ
けど、どこにもあいつの…
Aの姿はない
「はっ、はぁ…はぁ、A…」
ふと長い間走りっぱなしだったことに
気がついた
経験したことのないほどの疲労感と
喉の乾きが一気に俺を襲う
どこにいるんだ、A…
もしかしたらここにはいないのかも
しれない
熱が冷めるように
ここまで必死になって走ってきたことが
馬鹿らしくなった
今日もいつもみたく出ていっただけだ
抱かれにいっただけだ
いつもと変わらない
1つ大きな息を吐いて
来た道を戻る
その時だった
「…！」
仕事終わりだろうか
少し先を歩いていた疲れた顔のリーマンが
ある薄暗い細道を一点に見つめたあと
吸い込まれるように入っていった
その顔はやけに気色悪く
獲物を見つけた獣のような目
その男の入った道からはなんの気配もなく
奥に入り混じった路地裏からは
時たま何かを蹴るような音が聞こえる
あいつが好んで使いそうな細道だ
再び緊張で体が熱くなるのが分かった
固唾を飲むように唾を飲み込むと
情けなく喉が鳴る
ゆっくりと音のする路地裏に回る
近づくにつれ心臓がうるさくなる
ガンッっという音がなったと同時に
誰かの悲鳴のような声が聞こえた
「…A…？」
.
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作者名：絵描きさん
| 作成日時：2018年7月20日 19時
