勇次郎くんの許嫁『染谷勇次郎』

に ページ4

｢……あ｣





ぱちり、と目が合う




その目は静かに揺蕩う湖のように静かに、揺れていた


しばらくの間見つめ合う時間が流れる







｢……あんたが、榊A？｣








……あ、あんた…？



いや合ってはいますが。合ってはいますが





まあ、いいでしょう







｢はい、お初にお目にかかります。榊Aです｣



｢……｣





……なんと




愛嬌のある人……？


愛嬌、とはなんなのか。お父様は今一度辞書を引くべきです






くぁぁ、と彼が欠伸を噛み殺す


どうやら、気絶などではなく寝ていたよう




なんて体勢で寝ているのだろうか。器用な人である






｢……ねえ｣



｢は、はい｣



｢いつまで見てるの？｣





気づけば時は経っていた


見とれていたのだろうか、彼があまりにも写真超えをする美貌の持ち主だった為に






｢これは！大変失礼致しました｣


｢座れば？｣


｢はい、失礼致します｣






彼の向かい側に正座し、ふう、と息を付けば先刻の静寂がまた空間を支配する



お見合いは初めてではなかった


1度だけ受けたことがあるがその時はとても積極的に会話を膨らませてくれ、割と楽しい時間が過ごせたのです


丁度今の状況とは真逆＿＿と言ったところでしょうか







この場合。如何致しましょう



過去の己の会話を思い出し盛り上がった記憶を絞り出していると









｢……悪いけど｣



｢……は、はい｣








この先は、言わずもがなである

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