勇次郎くんの許嫁『染谷勇次郎』

じゅうご ページ17

｢じゃあ、早く入って｣


｢本日は誠にありがとうございました！帰り道お気をつけください！｣








……









｢ちょっと……早く入ってよ｣


｢勇次郎さんが早く歩き始めてくださいませ｣


｢そんなのいいから、入って｣


｢嫌です！勇次郎さんがお先に！｣






両者1歩も譲らぬ戦い、緊迫した夜の空気。木霊するは互いの吐く息

頭の中にタンクトップ姿で、勇ましい男が掛け声とともに半ば乱暴にゴングを鳴らす風景が浮かばれた








｢｢……〜〜もう！！！｣｣



｢｢え｣｣









ぶはっ



しばしの静寂を経て同時に吹きだす


先程から同時ばかりだ


変なところで息があってしまってこんな事があるのかと内心驚く







でも何より勇次郎さんと心が繋がったみたいで



顔から火が出る程笑ってしまって嬉しかったの


ひとしきり笑った勇次郎さんは降参と言わんばかりに目元を和ませて立ち上がった








｢……じゃあ僕から帰るから本当に早く入ってよ｣


｢承知しました！では、……おやすみなさい｣


｢……ん｣






彼は勇次郎さんの家の方向に体を向け、べっこうあめ色の街頭に照らされる夜の道に溶けていった


門に背中をくっつけてかがみ込む


顔が熱い、胸が熱い






今まで喉まで詰まっていたものが溢れ出したように安心のため息が溢れ出る



よかった、勇次郎さんと上手くやれている


本心から人と笑いあえたのはいつぶりでしょうか




でも私は嫌われているのだと思った。そんなの勘弁極まりない。人から嫌われるのはもうこりごりです







私も立ち上がる




さて、ここからの道が重いのです


足を掴まれているような気がして家に入るのを体が拒否している、と直感で思った





よ、と重い腰を起こして門を閉じる





明日も図書室に来てくれますでしょうか





不思議ですね、いつもより幾分か家への道のりが色多く見える


勇次郎さんの、せいですよ

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