【文スト】春情

７８話 ページ30

しかし本当にドス君が美しい。
灯りに照らされ艶めかしく光る髪と目。夜の黒がよく似合う。
息を飲むほど綺麗な佇まい。

写真に収めたい……そしたら家宝にするのに。

あ、そうだよ。写真を撮らせてもらえばいんだ！そうすれば何時でもどこでもドス君を拝める！




｢というわけなので、夜景をバックに写真を撮ってもいいですか！！｣

｢どういうわけなのか分かりませんが……写真ですか｣




ドス君は私の言葉を繰り返したあと、伏し目がちに視線を逸らした。分かりにくいが、少し困ったような表情にも見える。

ドス君が言葉に詰まったり、そんな表情したりするのは初めて見た。




｢もしかして、写真撮られるの苦手？｣




私は写真撮るのも撮られるのも好きだからイマイチ理解出来ないが、世の中には写真を撮られるのが苦手な人がいるらしい。
修学旅行で写真撮るときも頑なに拒否してた女子がいたのを覚えている。




｢いえ、そういうわけでは。……ただ、Aさんの事ですから、知人に写真を見せびらかしそうだと思いまして。写真を撮る分には良いのですが、あまり顔を見られたくないんです｣

｢顔を……？｣




ドス君はそう言って困った様に笑う。
私には彼の言葉の意味がよく分からなかった。

確かに、ドス君の美しさを知ってもらいたいがためにバイト先の人達に写真を見せてしまうかもしれない。……ん？待てよ。


今のドス君は猫耳→バイト先で写真を見せる→太宰さんに猫耳ドス君を見られるかもしれない。


こういう事か！
太宰さんとドス君仲悪いもんね。そりゃあ猫耳付けた姿なんて見られたら何言われるか分からないもんね。納得！

勝手に納得した私はダメ押しでもう一度頼んでみる。




｢大丈夫！誰にも見せないから！自分で楽しむだけ！｣

｢どう楽しむのか問い詰めたいのですが｣




そんな変な事はしない。
待ち受けにして眺めたり、印刷して壁に貼って癒しにしたりするだけだ！

お願い！と念を込めてじっと見つめていると、ドス君は｢はあ……｣とため息をついた。




｢仕方ないですね。ぼくもなるべく貴女の望みは叶えてあげたいですから｣

｢わーい！｣

｢その代わり……｣




携帯を取り出して喜んでいると、突然ぐいっと腰を引かれ、密着する形で携帯を奪われた。
え、何？私が状況を理解出来ずにいると、斜め上から大好きな声がして、耳が死にそう。




｢折角なら、二人で撮りましょう｣

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