【文スト】春情

６９話 ページ21

｢Aさん、ご家族を亡くしていましたの……？｣




そうとは知らずに以前は失礼な事を聞いてしまいました……とナオミちゃんが申し訳なさそうに目を伏せる。
その様子に逆に私の胸が痛む。違う、違うんだよナオミちゃん……！

……あれ？でも家族が居ないって事にしたほうが、都合がいいのかも？

身寄りを無くす→引き取られる→迷惑かけられないから働く
……我ながら完璧では？




｢う、うん。実はそうなの……｣

｢それは……大変だったね。まだ若いのに｣

｢家族に会えないのは辛いけど、親切な人が拾ってくれたので！大丈夫です！｣




精一杯の演技をするが、兎に角胸が痛い。こんなに私を心配してくれてる皆に嘘をつくのが申し訳なさすぎる……

それでも、全てが嘘という訳では無い。

『家族に会えないのは辛い』
これは本当の気持ちだ。
元の世界では今まで通りの時間が過ぎているとリックが言っていた。という事は私は突然行方を眩ませたという訳で。
つまり家族に大変な心配をかけている。
私も家族に会いたいし、わざとでは無いけど結果的に約束をすっぽかしてしまった事を友人に謝りたい。




｢何かあったら遠慮なく相談してくださいね！だってナオミとAちゃんはお友達ですもの！｣

｢な、ナオミちゃん……っ！！｣

｢ぼ、僕も！力になるよ！｣




ガッシリと両手をナオミちゃんに包まれたかと思えば、潤んだ瞳で心強い事を言ってくれた。それに便乗する形で敦くんも。彼はきっと自分の境遇も相まって私の辛さを分かってくれているんだろう。
二人とも、なんていい子なの……！これは嘘だとバレた時が怖い！

｢二人とも有難う〜〜〜！｣と半泣きで伝えると、ナオミちゃんももらい泣きしていた。
こんないい子もお友達になれて私は幸せだよお〜！！

ただ一人……太宰さんはそんな風景の中、私を鋭い目で見つめていた。

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