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70、私の話 ページ30




Aと同じように此処には居ない筈の人物が見えているのだ


「やめろ!やめろぉおおォォッ!」

「嫌ぁぁぁっ!」

「僕は違う!僕はただ、、、」


ホームがみるみる破壊されていく。素早く敦の元から距離をとったAは、小さく、ほんの僅かだが聞き覚えのある嗤い声が耳に入った

音を辿ると、長椅子の下にけたたましく笑い続ける例のホラー人形が落ちていて、子供の姿はない


「Aちゃん、それを私に投げるんだ!」


云い終わる前にAは駆け出す



人形を掴み上げ、野球で鍛えられた腕っぷしでぶん投げる。迷わず受け取った太宰は冷たい声で云い放つ


「消えろ」


太宰の異能力が発動し、無効化された人形はボロボロと崩れ落ちた。それと同時に敦が力無く項垂れ、Qの異能の印である痣も消えた


痣が消えたのはAも同じで、喋り続けていた幻覚ももう何も云えなくなった



Aは無意識に溜息を吐く



此処にきてから溜息ばっかだなと考えていると、額と右目に違和感を感じた。包帯が緩くなっている


おそらく爪か破片かで切ってしまったのだろう



ひらひらしたままなのは不快なので、勢いよく外す




急に風が直にあたった事で少し涼しく感じる。手の中に収まった包帯は、ゆらゆらと踊っている

最初は見えにくくて仕方が無かったが、今では何も思わなくなった



つくづく慣れとは怖いものだ






気がつくと太宰が前に立っていた


「ほら、これを遣い給え」


真っ白な包帯を差し出される。Aは太宰と包帯に交互に視線を移すと、ゆっくり受け取った


『どうも』

「若しかして、新品かと疑っているのかい?大丈夫、昨日国木田君が購ってきたばかりの真新しい物だ。

勿論!私の使用済みが良いのなら喜んで、」

『お気持ちだけいただきます』

「つれないなあ」


太宰はちっとも悲しそうな顔をせずに云った


『、、、、、、』


右目を片手で抑える。指の隙間から銀色が除く。少し視線を外せば、敦が春野に手を貸しているのが視界に入った




春野はビクッと肩を揺らし、ナオミは多少の怯えを瞳に馴染ませていた

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作者名:瑠風 | 作成日時:2022年5月10日 3時

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